「UX まとめ 2015」 イベントレポート
2015年12月11日にマイナビルームで開催された「UX まとめ 2015」。昨今バズワードともいえる「UX」についてのあれやこれやを、ソシオメディアが来場者の皆様と共に総括しました。年末のお忙しい中、大勢の皆様にご来場いただき、活発な議論が行われました。
イベントは弊社上野によるトーク「UXとデザイン まとめ」、篠原によるトーク「UXとビジネス まとめ」、会場の皆様とのフリーディスカッション、の3部構成で行われました。
トーク 1 「UXとデザイン まとめ」 – 上野 学
まずUXが注目される背景として、製品の時代からサービスの時代、機能重視から経験重視といった世の中の流れを確認しました。次にUXの歴史として、レオナルド・ダ・ビンチのディナーパーティーでの試みからディズニーワールドの構想、Web 2.0 から iPhone の登場などを取り上げました。
UXの定義として一般によく引用される概念図や定義文を紹介しつつも、世間で「UX」という言葉がどのように用いられているのかを把握することが重要とし、ここ数年で見聞きしたUXの語感を「UIの操作性」「デザインプロセス」「マーケティング」「組織スローガン」という4つの観点に分類して使用例を挙げました。
最後に、UXという概念について「人工物に対峙した時に人が得るもの」という捉え方を示しました。
トーク 2 「UXとビジネス まとめ」 – 篠原 稔和
はじめに、UXとビジネスの関係として、初めはUIを向上させるための「ユーザー体験」への着目だったものが、現在ではユーザーを起点としたアプローチ、戦略まで発展していると解説しました。また、言葉の使われ方として、思想、メソッド、手法、の3種類が氾濫していると指摘。そこから、UXを実践するステップとして、まずUX手法の習得と特徴の把握を行い、次にメソッドの習得と手法との組み合わせを検討、最後にプロジェクトへのメソッドと手法の採用を行うといった枠組みを示しました。
次に、米国でのリモートUXリサーチツールの需要増加について解説。スタートアップ企業では、投資家からの要請でリサーチが行われたり、事業企画・経営戦略部門を含む全社横断的な活用もされているといったことから、日本でも今後広く普及していくだろうと話しました。
また、組織のUX成熟度を急速に向上させた企業として、米国GEの事例を紹介。篠原が今年8月に行なった Greg Petroff 氏へのインタビューを元に、企業でUXを浸透させるための成功要因として組織風土が最重要であるということを、GEの実践例を交えながら解説しました。
最後に、インダストリー革命の鍵をにぎるのがUX組織であるとの見解を強調。社会インフラがスマート化している事例から、IT業界を中心に BtoC で行われていたUXから、産業全般へのUXに広がっていくだろうとの見解を示しました。
フリーディスカッション
フリーディスカッションでは、事前に来場者の皆様からトピックを募集し、それらについて自由に発言していただくという形式で行いました。
トピック: UXの取り組みの効果をどのように示す?
社内でUXの効果を示したいがなかなかうまくいかない。タスク評価や NPS を測ったりしてはいるが、もっと説得力のあるような、ユーザー経験そのものを測るようなものはないだろうか。
<会場より>
- 指標は多面的な評価のために使う。経営指標には使わないほうがよいのではないか。みんなで頑張って NPS をあげるというのが現実的だと思う。
- 数値化できないもの、長期的で測りづらいものも多い。とりあえず「何をしたらアクション数が増える」などと宣言してしまい、できなかったら読み違えたなど説明する。
- (篠原)アメリカでは、10年ほど前に ROI の議論はひと段落した。iPhone での Apple の成功によって、デザインの重要性が認知され、ROI の話がなくても力を入れるようになった。だが今、従業員の説得のために ROI が再注目されている。
トピック: 社内での立場や、受発注の関係における活動方法の違いとは?
社内の上司や他部門に対して、UXについての活動をどう共有したら良いのか。また、サービス事業者(発注側)と受託側のそれぞれの立場でどのように活動すればよいのか。
<会場より>
- ユーザビリティテストの映像で、ユーザーが実際に失敗したりしているところを見せると、ショックを与えられる。それがきっかけになって考え方を変えていける。
- デザインの言語化が重要。また、人によって判断の仕方が違うので、誰に対してどのように説明するか、どのデータでどういった話をするかを考える必要がある。
- 説得するのではなく、勝手に実行して、成果を上げる。その後で「実はこんなことしてました」と話す。概念で説明されてもほとんどの人は納得できないが、結果をみせると興味を持ってもらえる。
- 発注側であるメーカーに所属しているが、上司はインハウスデザイナーよりも、外部で様々な経験を積んでいる人の言うことを信用してくれる。受託側のコンサルタントなどの人には専門家らしく振舞ってほしい。
- 受託側は、クライアントの組織開発に踏み込む必要があるのではないか。組織としての問題が大きいがために、UXやサービスデザインが成り立たない場合がある。
- 受託側だが、クライアント社内での意思決定の場に出席し、上層部に説明してくれと言われることがある。それが効果的。そのためにまず担当者との信頼関係が重要。
- (篠原)レガシーな大企業ではなかなか変化を起こすのが難しいが、若手がダイナミックに動くことで変えたケースもある。事実ユーザーの感覚に近いのは、日頃からいろいろなアプリやサービスを使っている若手。
トピック: 要素技術の開発や、企業ブランディングなど、様々な分野におけるUXとは?
<会場より>
- メーカーの研究部門にいるので、直接のターゲットユーザーがいない。ただし将来の製品化を前提としているので、目標性能などを考える上でユーザー像を具体化することは有意義だろう。
- エクストリームユーザー(ヘビーユーザーや全く知識のない素人など)でペルソナを立てることによって、新しい可能性や解決策が見える場合がある。
- あえて既存のユーザーとは違う層に向けて広告すると一気に広まることがある。また、すでに認知度100%近いブランドでは、変わり続けることをアピールすることで効果が上がる場合もある。
トピック: UXに携わる人材の評価や教育はどうすればよい?
デザインの原則や制作のフレームワークを学んで知識があっても、実践的なスキルを上げるには経験が必要。評価や教育についてはどのような方法があるのか。
<会場より>
- 大学では3、4年の2年間を専門教育に当てており、時間がかかるのは仕方ない。プロダクトデザインやグラフィックデザインの分野では、長い時間の中ですでに教育の手法が確立されているが、UXを含むIT業界では流動が激しく、教育の手法や内容は5年でもう古くなってしまう。学生には、産学協同のプロジェクトで企業と関わる機会があると良い刺激になる。
- 自分が所属している企業ではデザインと縁遠いため、デザイナーとしてのキャリアアップは存在しなかった。だから制度を作り、デザイナーのスキルを見える化し、デザイナーにランクをつけた。そのランクごとに配属や仕事内容を決めている。
- (篠原)すでにスキルのある人に、その人がやっていることがUXの中でどのような位置付けになるのかを伝え、興味を持ってもらうこともできる。
以上のように、フリーディスカッションでは社内外での共有の方法や人材の評価・教育といった、UXを実践する上での組織的な課題や悩みが中心となりました。
なお、今回のフリーディスカッションでは、UX戦略フォーラム 2015 Summer でもご協力いただいた和田あずみさんが、飛び入りでグラフィックレコーディングのパフォーマンスを行ってくださいました。
ソシオメディアでは、引き続き来場者とともにUXについての理解を深め、具体的な実践方法を模索していくイベントを計画しています。どうぞご期待ください。