『デザインマネジメント原論 – デザイン経営のための実践ハンドブック』「プロジェクト用の課題」の活用方法と解答例
弊社が監修・翻訳を担当した『デザインマネジメント原論 – デザイン経営のための実践ハンドブック』には、デザインマネジメントの実践に役立てるためのハンドブックとしてもお使いいただけます。
1章〜8章の各章末には、3〜10問の演習「プロジェクト用の課題」が用意されています。同じく各章末に用意されている「復習の問い」と密接に関連し、論点やテーマをプロジェクトに発展させるよう促す内容となっています。デザインマネジメントやデザインとイノベーションといった内容に取り組む方が、議論を深め、デザインマネジメントの理論と実践を深く研究することを促しています。
この記事では、各章からピックアップした「プロジェクト用の課題」の解答例とともに、活用方法をご紹介いたします。
『デザインマネジメント原論 – デザイン経営のための実践ハンドブック』の概要紹介
第1章の「プロジェクト用の課題」の一部。 『デザインマネジメント原論 – デザイン経営のための実践ハンドブック』p23より
「プロジェクト用の課題」解答例 目次
- 第1章:デザインの価値:デザインと組織
- 第2章:デザインマネジメントの実践:ケーススタディ
- 第3章:デザインの活動領域:成功のための柔軟な戦略
- 第4章:デザイン戦略の実践:ケーススタディ
- 第5章:デザインのビジョン:国の資産
- 第6章:成長とイノベーションのための道具としてのデザイン:メキシコのケーススタディ
- 第7章:デザインの未来:変化のイネーブラーとしてのデザイン
- 第8章:今後の展望とデザインマネジメントの未来についての議論
第1章:デザインの価値:デザインと組織
第1章では、デザインが組織にどのような価値とメリットをもたらすかを紹介しています。組織におけるデザインの評価を行うための方策や、デザインのプロセスモデルについても触れています。それでは、「プロジェクト用の課題」とその「解答例」を見てみましょう。
Q1 デザインは、組織に有意義な価値をもたらすことができる。デザインがどこで付加価値をもたらすか、組織のイメージを高めるか、既存のプロセスを向上させるか、成否の機能や性能を高めるかを示す分類図を作る。
この課題への解答として、英国のデザインデザインマネジメントの学習者は、「デザインマネジメントがいかにビジネスに貢献できるか」というテーマでレポートを作成しました。レポートの主旨は以下の通りです。
レポート「デザインマネジメントがビジネスを効率化する」(原題:“Design management helps improve business efficienty”)の表紙
タイトル:
「デザインマネジメントがいかにビジネスに貢献できるか」(原題:“Design management helps improve business efficienty”)
- デザインはビジネスの様々な側面で需要な役割を担うようになってきている。
- 例えばマーケティングでは、特定の戦略、プラットフォーム、チャネルのニーズを満たすためにデザインの活用が必須になっているだけでなく、ブランドの一貫性を実現することによる販売プロセスの効率化や、業務プロセス改善にも役立っている。
- デザインの変更が、ビジネスの利益の達成に影響を及ぼすことが事例によって検証されてきている。
- デザインは、市場に受け入れられやすいイノベーションと、競争力のあるプロダクト/サービスの構築に役立っている。
Q2 組織がデザインを導入する際に直面する一般的な障害を特定したうえで、それらの障害を克服するための戦略的行動計画を策定する。
一般的な障害
- 残念ながら、「デザイン」という言葉が狭義のグラフィックデザインやスタイリングにとどまる末端の活動であり、経営の根幹に影響を与えるものではないという認識を持つ経営者がまだ多数を占めている。
- デザインと経営戦略が具体的なイメージとして結びつかない。
- デザインに関する取り組みは、専門家へ丸投げされ、経営者との会話が成り立ちにくい。
- 関係者間で共有できる指標や共通言語が少ない。
上記の障害を克服するための戦略的行動計画
- デザインがスタイリングにとどまらず、製品そのものの価値に大きく影響していることを経営層に理解してもらう。
- デザイン専門家と経営者との共通言語を作成する。
- デザイン専門家と経営者とのディスカッションを定例化する。
- 開発プロセスの中で、次の段階へ進むポイントを客観的に判断することができるように指標化し、関係者間で周知徹底し共有する。
Q8 デザインカウンシルのダブルダイヤモンドのプロセスモデルの主な長所と短所を特定し、より多岐にわたる組織の事業計画活動をサポートするためにどのように改善できるかを提案する。
デザインカウンシルの「ダブルダイヤモンド」モデル(本書第1章より)
長所
- プロセスとして4つのステージ(ステップ)が用意されているので、開発段階の把握が容易にできる。
- ダブルダイヤモンドという名前が、拡散と集約の形状を表しているので、その意味が理解しやすい。
短所
- 一度のサイクルで終了ではなく、4つの各ステージでも全体でも、何度も拡散と集約を繰り返し行うのが本来の姿であるが、プロセスモデル上は単発のリニアなプロセスに見えてしまう。
- 各ステージでの具体的なアウトプットの内容がイメージしづらい。
改善案
- リニアなプロセスではなく循環的なプロセスであると周知する。または、循環的なことを示す他のプロセスモデルとセットで提案する。
- アウトプット例をステージごとに整理し、プロセスモデルと結びつけて確認できるようにする。
Q10 この章全体を振り返って、デザインが組織にどのように価値をもたらすかを列挙した簡潔なリストを作成する。デザインに対して懐疑的な相手にデザインの価値を理解してもらう方法を考えてみる。
デザインが組織にもたらす価値
- イメージの醸成:
デザインは、組織が顧客の目にどう映るか、顧客とどうコミュニケーションするかをコントロールしコーディネートするための素晴らしい手段となる。デザインを正しく理解している組織は、会社のイメージを厳密に管理し、人材採用から売上拡大まで多数の側面でポジティブなイメージの恩恵を受けている。 - プロセスの改善:
ほとんどの製品の生産コストはデザインフェーズが終わるまでに決まる。このため、新製品開発プロセスの初期段階で、デザインに投資することが、好ましい結果を得ることにつながっている。 - 生産性の改善:
デザインの活動により、生産効率を大幅に高めることができる。製品を構成する部品の複雑さを軽減し、生産にかかる時間を短縮することができる。
デザインの価値を理解してもらう方法
- デザインで成功している企業の実績を定量的な指標で示す。
- デザインで成功している企業や団体などの組織の事例を、動画やインタビュー形式などの形で提示し、理解を深めてもらう。
第2章:デザインマネジメントの実践:ケーススタディ
第2章では、デザインが組織の変化に有意義なかたちで寄与した数々の事例を紹介し、変化を触発する様々な形態が示されます。ここでは普段私たちが知ることの少ない欧州での取り組みが6社の事例として紹介されています。
Q1組織改革のプロセスに着手する際に、デザイン思考の一般的なテクニックのうちどれを用いるか。
デザイン思考における「ユーザー理解」を徹底し、エンドユーザーへの共感を醸成する。その上で、「現状のどこを改善したらよいのか」を念頭におきつつ、顧客との関係を見直し、企業のコアバリューの再定義を行う。複数の専門領域にまたがる人材と共にワークショップを集中的に開催し、新規事業のシナリオや機会を特定するなどのテクニックを用いる。
英国のデザインマネジメントの学習者は、この問いへの回答をレポートという形でまとめました。レポートの主旨は以下の通りです。
レポート「ブランド感情におけるデザインの役割:ブランドへの愛とヘイト間のギャップマネジメント」(原題:“The Role of Design in Brand Emotions: Managing The Gap Between Brand Love and Brand Hate.”)の表紙
タイトル:
「ブランド感情におけるデザインの役割:ブランドへの愛とヘイト間のギャップマネジメント」(原題:“The Role of Design in Brand Emotions: Managing The Gap Between Brand Love and Brand Hate.”)
- デザインは企業の戦略的なアセットとして取り込まれ、戦略的なブランド体験の構築に重要な役割を持っている。そのような中、感情的な反応によってもたらされる結果を理解することや、それらの感情のマネジメント方法について学ぶことは極めて重要である。
- 消費者のブランドに対する感情がポジティブな場合はブランド愛という形でポジティブな効果がもたらされる。反対にネガティブな場合はヘイトとなり、場合によっては企業への攻撃に変化してしまう。
- デザインは、消費者に共感し、顧客をブランド体験に引き込むことに貢献することで、愛とヘイト間のギャップマネジメントに貢献できる。
Q3 ITサービスの顧客体験を改良しようとする際に、デザインプロセスのどこでエンドユーザーを巻き込み、そのフィードバックを収集しようとするか。
デザイナーのサポートを得て、リサーチを実施し、ユーザーのニーズがどこにあるかを明確にすること。つまり、初期のユーザー調査の段階からエンドユーザーを巻き込み、フィードバックを得ることが望ましい。ただし、本来は初期だけでなく、プロトタイプやリリース前など、デザインプロセスの各段階でフィードバックを得て、細かく改善することが必要である。
Q7 原産地を主な訴求点とするブランドを開発する際の重要な課題を特定する。
原産地を訴求点にすることは、食品などのブランディングには有効である。しかしながら、その魅力を最大限に活かすためには、該当食品の原産地が消費者に十分知られていることが必要となる。また、その地域が該当食品と結びついていることが望ましいが、そうでない場合には、結びつきを作るための新たなストーリー構築が必要となる。
第3章:デザイン活動領域:成功のための柔軟な戦略
第3章では、企業の事業戦略開発においてデザイナーがいかに「陰の立役者」になっているかについて解説しています。また、この章の後半では、新製品開発におけるデザインプロセスのモデルと、その各段階でのツールについても言及されます。
Q7 自分がある会社の最高デザイン責任者だったなら、デザインのことをあまり知らない社員も含めて全社員に対してどのように自分の戦略的デザインの「ビジョン」を伝えるかまとめる。
取締役会レベルでデザインを認識し、擁護することは、長期的な方向性、会社の目標、管理構造、財務、人事といった組織の全体的なビジョンに根本的に直結する。
戦略的ビジョンを伝えるには、デザイン分野のリサーチ結果をビジネスの言語に翻訳して伝えることが必要である。また、デザインを取り入れて成功している企業のデータや事例の提示も有効と思われる。
Q8 新しい製品コンセプトを導入するためのマーケティング戦略を策定し、どこでどのようにデザインが有意義な価値をもたらすかを明確に特定する。
新製品開発におけるテーマのひとつに、マーケティング領域と技術領域が戦略的方向性に寄与することがある。技術を重視した製品やサービスで、高い技術を持っていても、複雑で顧客のニーズや理解を超えたものであっては受容されることはない。
広義のデザインは、技術を重視したテクノロジープッシュの製品やサービスの欠点を補完し、顧客が理解しやすいものに変換することができる。デザインにより、新技術を効果的に顧客へ届けることができるというのは、大変有意義な価値である。
Q10 一般的なデザインブリーフに盛り込むべき必要最小限の要素をこの章で説明したが、マーケットプルの製品コンセプトを追求する際に、ほかにどのような要素を考察する必要があるか検討する。
デザインブリーフは、特定のデザイン作業の目的、文脈、主な成果物と要件などを説明した文書である。マーケットプルの製品やサービスでは、顧客のインサイトがより重要視されるので、顧客が本音ではどう考えているのかという「ターゲットインサイト」や、それをメッセージ化した「キーメッセージ」などを盛り込む必要がある。
第4章:デザイン戦略の実践:ケーススタディ
第4章では、第3章に呼応する形で、デザイン戦略の実践の側面に光を当てて、企業に大きな成果をもたらした5つのタイプの事例を紹介しています。2章と同様に、各事例の詳細なストーリーが解説されています。継続的に事業を成功させるための戦略的な駆動力として「デザイン」を活用する姿勢からは、事業成功のためのデザインマネジメントについて多くの知見を得ることが出来ます。
Q1 Eat17 Bacon Jam* について、主力製品を直近の競合製品から明確に差別化するためのマーケティング戦略を策定する。
*Eat 17 Bacon Jam はイギリスの調味料やソースを有する家族経営の小さな会社。デザインを強調してユニークで覚えやすいブランドアイデンティティを作り出した。
マーケットプル型の製品は、模倣されやすく、差別化のポイントが陳腐化しやすい。よって、Eat17 Bacon Jam では、製品の元となった家族経営のビストロで出す料理の美味しさなど、原点となっている飲食店のオリジナリティやローカリティを継続して打ち出すことが必要と考えられる。敢えて大量生産を行わず、希少価値を求める戦略もあり得る。
Q4 製品カテゴリーを当初の大衆市場から高級市場(すなわちニッチ市場)に変更するための包括的なブランド戦略を策定する。
ブランドターゲットが変わることは、顧客のインサイトが変わることであり、新たなインサイトに忠実でなければならない。そのため、以下のようなブランド戦略の転換が必要になると考えられる。
- 全方位に満遍なくから、特定少数のお気に入りへ
- マスからニッチへ
- 大衆への訴求から、違いのわかる人だけへの訴求へ
- 個別の機能ではなくホリスティックな体験価値の醸成
Q7 SPP/Edward Martyn Concrete Designs のデザイン主体の事業にとって重要な側面を調べるための簡潔な質問票を作成する。この質問票は顧客満足度を調べる内容に調整し直して、PR会社やマーケティング会社で使用できるかもしれない。
質問票は以下の通り。
- プレキャストコンクリート製品の特徴と最も重要な付加価値を教えてください。
- プレキャストコンクリート製品は、BtoB の製品カテゴリに属するものですか?
- 「ウッドクリート」はどこでどのような目的で使われることを想定した製品でしょうか?
- プレキャストコンクリート製品は、顧客による受注生産品でしょうか?それとも既製品でしょうか?
- プレキャストコンクリート製品は、個人に販売するものでしょうか?
- 御社の製品について顧客から最も賞賛されている点は何でしょうか?
第5章:デザインのビジョン:国の資産
第5章では、デザインの活動を大局的に捉え、国レベルの活動を考察しています。デザインの重要性を企業に対して訴える「デザイン業界団体」の役割についても紹介しています。更に、国が資金援助するデザイン支援制度の現況も記述しています。
Q5 国のデザイン支援制度は、デザイン政策にとって重要な要素となる。デザイン活動に不慣れな中小企業に対して提供すべき支援には、どのようなものがあるか。
- 外部専門人材の登用支援:
一般的に、中小企業においてはデザインマネジメントに長けた専門人材が不足しているので、外部人材を積極的に登用することが求められる。そのため、専門人材の紹介や、専門人材採用における優遇措置といったの支援が必要である。これらの専門人材が初期の指導から各種現場での指導を担うとともに、デザイン人材の育成にも関与できる支援策が必要となる。 - 教育プログラムの提供や個別コンサルテーションの実施:
デザイン活動を企業内部で推進していくための教育プログラムを継続的に提供する。また、現場のデザインプロジェクトに関する個別コンサルテーションを実施する。
Q9 サービスデザインのツールとテクニックについて、行政サービスのユーザーエクスペリエンスを理解するのによく使われる2つのツールを選んで考察する。
- ユーザーペルソナ:
初期のリサーチに基づいてエンドユーザーの特徴やパーソナリティのタイプを作成し、ニーズ、習慣、動機などの洞察を得ることができる。ペルソナによって当初のアイデアやコンセプトを発展させ、個々のユーザーのニーズに照らしあわせた開発と検証を行えるようになる。 - ストーリーボード:
エンドユーザーが辿る道のり、通過するタッチポイント、特定のサービスに対して体験するインタラクションを物語(ストーリー)風のカスタマージャーニーにまとめる。ユーザーの視点から体験やタッチポイントを視覚的に表現することで、さらに発展させるべき興味深い洞察を得ることができる。
Q10 デザイン創造都市の認定を受けたダンディーが、今後さらにクリエイティブな都市としてのアイデンティティを高めていくために、デザインとクリエイティブなネットワークをどのように活用していけるかを、簡単な戦略概要としてまとめる。
ユネスコ創造都市ネットワークに入ったことで、ダンディーは、上海、シンガポール、ベルリン、ヘルシンキ、デトロイトといった、自身よりはるかに大きな都市と肩を並べることとなった。今後は、このデザインとクリエイティブなネットワークを活かして、他のデザイン創造都市と交流・協力を行い、小都市だからこそ実現可能なデザインビジョンを開発していくことが望ましい。
第6章:成長とイノベーションのための道具としてのデザイン:メキシコのケーススタディ
第6章ではメキシコシティのケーススタディについて詳細を見ていきます。ここでは、マクロ、組織、個人のプロジェクトといった3つのレベルでのデザイン活動を確認していきます。また、国、産業、事業のレベルでデザインの影響を測定する方法の観点からの解説もあります。
Q1 メキシコは現在、世界のデザインセンターとしてリブランディングを進めている。これを念頭において、その野心を盛り込んだ国際的な広告会社のためのデザインブリーフを開発する。
デザインブリーフ:メキシコのリブランディングプロジェクトについて
メキシコの背景状況:
- メキシコは、北米に位置しているが、社会的・文化的・歴史的にはラテンアメリカおよびカリブ海地方に属している。ラテンアメリカの総人口は、世界人口の約8%を占めている。この地域は、歴史的に慣習や生活を抜本的に変化させる様々な状況に遭遇してきた。
- ラテンアメリカ初のデジタルシティをはじめ、イノベーションのハブを各地にもたらすような人的能力を開発する戦略と行動は実践しつつある。実際、専門知識を持った人材は増えていているが、メキシコが研究者や技術者の数を増やすために行っている投資は、GDP の 0.36% に留まっている。デザインの学位は、文系理系両方にあり、メキシコ全土でデザイン教育課程の認可を受けた大学は47校、教育機関は224ある。
- 特に国が注力する分野において、官民学の連携を促進するプロジェクトも実行されており、企業におけるイノベーションの重要度の認識は高まっている。
課題ステートメント:
メキシコは、デザインセンターとしてのリブランディングを進めていく上で、以下のような課題を抱えている。
- メキシコ経済は、外部要因の下降気流を受けやすいため、この課題を解消したい。これは、米国と深い経済環境にあるため、米国の景気循環に左右されやすいうえ、石油生産への依存度が高く、また外国から輸入する機械や技術を多用しているからである。
- 世界競争力ランキングの順位を落としてきている。理由としては、1) 他の開発段階にある国が事業効率を高め競争力を向上した 2) メキシコは改革を実行したが、思ったほどの効果を挙げられず、限定的な成長に留まった 3) 効果的とは言えない政策や戦略を策定し、政府省庁の機能や教育の質を低下させ、情報通信技術の普及も鈍化した。
- さらに様々な国内課題がある:
- 曖昧で透明性に欠ける政策プロセス
- 非効率な法的制度
- 中小企業を支援する財務リソースの不足
- 極度の貧困
プロジェクトゴール:
- デザインの価値のモデルに含まれる4つの段階において、最終段階である「戦略要因としてのデザイン」を達成する。
デザインの価値のモデルに含まれる4つの段階。 『デザインマネジメント原論 – デザイン経営のための実践ハンドブック』p128より
ソリューション:
- 表層にあらわれる戦術的なデザインから戦略的なデザインまでステップ・バイ・ステップで取り組む。
- 第2ステップー戦術的なデザインの達成を目指すためには、デザインのワークショップやクリエイティブなスペースを提供し、環境整備を行う。
- 第3ステップープロセスとしてのデザインでは、デザインフェスティバルやビエンナーレなどのデザインイベントを通じて、デザインの啓蒙を推進する。
- 第4ステップー権威あるデザインカウンシルやデザイン賞、業界団体を設立し、産業界、デザインコミュニティ、教育コミュニティ間の対話を促し、国レベルの実践と影響力を実現できるエコシステムの構築に務める。
デザインの枠組み。 『デザインマネジメント原論 – デザイン経営のための実践ハンドブック』p133より
Q2 メキシコのデザイン業界の強みと弱みに焦点を当てた SWOT 分析を行ったうえで、戦略的開発領域を提案する。
Strongness(強み):
- マクロ経済環境が比較的安定している。
- 国内市場が奥深いため、スケールメリットを実現できる。
- 輸送交通のインフラストラクチャがそこそこ整備されている。
- 洗練度の高い企業が多い。
- 国のデザインと芸術、そしてそれらの造り手を認識しようとする団体や取り組みが多数存在する。
Weakness(弱み):
- 他の開発段階にある国と比べ、事業効率化に遅れを取っている。
- 中小企業を支援する財務リソースの不足。
- デザイン教育への投資金額の GDP 比率が低い。
Opportunity(機会):
- 世界人口の約8%を占めるラテンアメリカの総人口。
- 経済的には「開発途上国」に分類されており、今後、大きく成長する可能性がある。
- イノベーション主導型の経済へと移行しつつある。
Threat(脅威):
- 米国と深い経済環境にあり、米国の景気循環に左右されやすい。
Q3 メキシコの国のルーツを反映している大手ブランドを特定したうえで、国のアイデンティティを反映するデザイン要素のビジュアル分析と監査を行う。
Pineda Covalin
メキシコの伝統的なお祭り「死者の日」をモチーフにしたデザインシリーズ。Pineda Covalin ウェブサイトより
Pineda Covelin は、メキシコとラテンアメリカの伝統、文化、自然の美しさをファッショナブルな製品として共有することを目指す会社である。色、柄、形状を通じてストーリーを語っており、画像の「死者の日」シリーズは Pineda Covelin のプロダクトを象徴するデザインシリーズ。「死者の日」でよく飾られるガイコツをモチーフにした飾り物や、アルタールと呼ばれる祭壇の飾りをイメージさせるようなプリントのスカーフなどを制作・販売している。
第7章:デザインの未来:変化のイネーブラーとしてのデザイン
第7章では、デザインを広い角度からとらえて、刻々と変化する社会と技術という文脈において、デザインが変化をどのようにして率い、そして変化にどう反応しているかを考察しています。変化する社会と技術の視点として、「デザインと技術の変化」「人口構成の変化」「消費者の変化」という3つについて取り上げています。特に、「消費者の変化」では CSR とデザインの関係や課題について解説しています。
Q2 CSR 重視の姿勢を打ち出している大手組織がどのような高度なレベルで CSRの価値観を取り入れているのかを示す枠組みを作成し、CSR のプラクティスを導入したいと考えているほかの組織に対して CSR の価値観をどのように導入すべきかを考察する。
顧客やエンドユーザーは、企業の行動が社会、経済、環境に及ぼす影響をますます気にするようになっている。このため、組織は責任ある行動のリーダーシップをあらゆる業務で発揮し、説明責任を今まで以上に果たさなければならない。環境と社会全体に貢献しているとみられる企業を大衆が好む傾向は、多数の調査結果で示されている。しかし、そのような優れた評判を得ることだけが CSR の目的ではない。
CSR の課題を企業がどのように取り入れるかは、基本的にそれぞれの置かれた状況によって異なる。企業は顧客と近い関係を築くことで、そのニーズをよりよく認識するようになり、結果として製品の品質という点で競争力を高められる可能性がある。場合によっては、CSR が効率化を招き、価格面での競争力につながることもある。
理念だけに着目するのではなく、企業の営利活動の一環として総合的に捉えた導入が望ましいと考える。
英国のデザインマネジメントの学習者は、この問いへの回答をレポートという形でまとめました。レポートの主旨は以下の通りです。
レポート「ソーシャルイノベーションのためのデザイン:企業と NGO がサステナブルな活動を行うための指針」(原題:“Design for social innovation: a trail for organisations and NGOs to follow for sustainable activity”)の表紙
タイトル:
「ソーシャルイノベーションのためのデザイン:企業とNGOがサステナブルな活動を行うための指針」(原題:“Design for social innovation: a trail for organisations and NGOs to follow for sustainable activity”)
- 行き過ぎたコンシューマリズムが限界に達し、サステナブルなビジネスモデルへの転換期を迎えている。
- デザインは、環境・社会問題に大きな役割で貢献できると同時に、倫理的な商品/サービスへの要求が高まる消費者に対しての市場競争力も高める。
- デザインを用いて、ワークフローを洗練させ、環境負荷を大きく軽減する新しいシステムを創造することができる。それだけでなく、コミュニケーションを通じて、社会・環境に対する気づきを促すこともできる。
Q3 新製品開発の活動における「段階的な」イノベーションと「抜本的な」イノベーションの主な違いを示す簡単な分類図を作る。
- 段階的なイノベーション:
過去のテクノロジーや技術の延長線上に位置付けられる「改善」であり、量的な増加である。より速くなる、より効率的になる、より大量になるといった変化が起こる。
例として、蒸気機関に対するガソリンエンジン、半導体集積の大規模化などが挙げられる。 - 抜本的なイノベーション:
過去のテクノロジーや概念とはまったく異なる方法論で実現されるイノベーション。過去の技術や仕組みを一掃してしまうほどの影響力を持つ。「革命」であり、質的な変化をもたらす。抜本的イノベーションはその登場時には一般大衆に理解ができないことがしばしばある。
例として、コンピューターへの GUI 導入、店舗販売に対するオンラインショッピング、ホテル業に対する Airbnb が挙げられる。
Q7 特定の人口層に大きく依存している製品の例を4つ見つけ、グレーパウンドとミレニアルの両方に向けた製品の例を少なくともひとつ入れるようにする。
- 紙おむつ:
乳幼児の子どもが排尿排便のトレーニングが終了するまでの数年(0歳〜3歳ぐらい)および高齢者(80歳以上など)
ミレニアル世代の子ども、グレーパウンド(高齢者)世代の両方が対象となる - 粉ミルク:
授乳期の子どもの時期(0歳〜1歳ぐらい) - 入れ歯とそのメンテナンス:
高齢者(80歳以上など) - 玩具:
幼児から児童の時期(3歳〜8歳ぐらい)
購入者はミレニアル世代、グレーパウンド(高齢者)世代となる。
第8章:今後の展望とデザインマネジメントの未来についての議論
第8章では、専門領域としてのデザインとデザインマネジメントの未来について焦点を当てています。私たちの生活を高める手段であるデザインが、社会的・技術的な変化を踏まえて次なるステップとしてどこに向かうのかが考察されます。
中でも大きな動きが見られる領域として、医療分野とスマートシティについて考察しています。章の終わりには、中国におけるデザインとデザインマネジメントの発展と果たしている重要な役割について紹介されています。
Q1 耐久消費財市場のトレンドを予測するために、どのようなツールとテクニックを使用することができるかを考察する。
耐久消費財市場のトレンド予測に用いることができるツールには以下のようなものがある。いずれもユーザーニーズを探る方法である。
- 行動観察(オブザベーション):
利用者が製品を利用する様子を観察し、利用者の行動特性を把握する。利用ログやアンケートでは得られない利用者の実際の振る舞い、感情的反応などから、要求の本質や潜在的な課題を探る。 - フォーカスグループ:
開発中の製品に対する顧客の洞察を集めるために用いられる。参加者に進行役がついて、製品をその場で見せたり体験させたりした上で、質問を尋ねながら有意義なフィードバックを集めていく。 - 聞き取り調査:
対象製品のユーザーで、慎重に選んだ少人数の参加者を対象に、詳細な聞き取り(インタビュー)を行うことで、幅広い定性的な情報を得ることができる。
Q4 公的な医療サービスの一側面を取り上げて、そのエンドユーザー体験を高めるためにどのようにデザイン思考が役に立つかを考える。
医療環境へのデザイン思考の導入が、癒しのプロセスを左右する重要な要因であることは、近年広く認識されるようになっている。
デザイン思考を用いて、医療サービスの受け手である患者の体験そのものを、深く洞察する。感情的なものを含め、どのような医療を受けたいのか詳細に要望を把握し、医療体験の改善を考察する。また医療サービスの提供者である医師やスタッフの関わり方についても、医療者の視点の情報を収集するのに、デザイン思考の手法が役立つ。
Q8 主な犯罪の種類(駐車車両からの窃盗など)を特定し、デザイン思考がこれらの発生をどのように減らせるかを説明する。
犯罪予防のデザインは、都市計画やそれに伴う空間デザインなどの専門領域で重視されてきた。例えば、盗みが行われにくいように駐車場を人々の目に触れやすい場所に設置するなどが考えられる。
デザイン思考を用いて、一般の人が利用するには使いやすいが、悪用するには「使いづらい」デザインを検討し、これによって犯罪の防止・抑制を実現することが可能になる。自動車の所有者には簡単にドアを開けることができるが、部外者(窃盗を行おうとしている者)には必要以上にドアを開けにくくするような手法である。犯罪に至る文脈を精緻に分析することによって、そのチャンスを減らすことにデザイン思考を用いるのが望ましい。
「プロジェクト用の課題」の活用方法
ここまでご覧いただいた方は、おそらく「自分だったらこう答える」という考えを巡らせながら読んでいただけたのではないでしょうか。
「プロジェクト用の課題」には以下のような活用方法が考えられます。
- 書籍の理解度の確認
- 自身やチームのこれまでの活動の振り返り
- 読書会、勉強会、ワークショップ等で投げかけるテーマ課題
- チーム内でのデザインマネジメントに関するブレストの題材
アウトプットの形も、活用方法によって、文章形式だけでなく、ブレインストーミングから発生する付箋やスケッチノート、分類図などいろいろな形式になる可能性があります。
ぜひ、現在お持ちの課題と照らし合わせて、様々な形で活用いただき、本書の理解を深めるとともに、デザインマネジメントの取り組みの推進にお役立ていただければと思います。
「私の組織ではこういった形で活用しました!」というご報告をお待ちしています。