『デザインマネジメント原論 – デザイン経営のための実践ハンドブック』「復習の問い」の活用方法と解答例

ソシオメディア
2019年11月14日

弊社が監修・翻訳を担当した『デザインマネジメント原論 – デザイン経営のための実践ハンドブック』には、各章末に内容を振り返るための「復習の問い」が用意されています。本書籍は、章末に用意されている問いを活用して、書籍への理解をさらに深め、デザインマネジメントの実践に役立てるためのハンドブックとしてもお使いいただけます。
今回は、その解答例とともに、「復習の問い」の活用方法をご紹介していきます。

『デザインマネジメント原論 – デザイン経営のための実践ハンドブック』の概要紹介

「復習の問い」の一部
第1章の「復習の問い」の一部。 『デザインマネジメント原論 – デザイン経営のための実践ハンドブック』p22より

「復習の問い」の活用方法

本書の各章末にある「復習の問い」では、その章の考察内容について振り返り、どのようなことを習得し、どのような洞察を得たかを考えるように促しています。ここで問われる質問を通じて、その章のポイントやテーマをおさらいし、全体的な内容の理解に役立てることができます。
「復習の問い」には、例えば以下のような活用方法が考えられます。

  • 書籍の理解度の確認
  • 書籍の内容と自身の知識や経験、諸活動との対応付け
  • 読書会、勉強会、ワークショップ等で投げかけるテーマ課題

「自分だったらこう答える」「この解答例と比較すると、自組織の場合はこうなる」など、様々な考えを巡らせながら以下の解答例を参照しながら、役立てていただけると幸いです。

「復習の問い」と解答例 目次

第1章:デザインの価値:デザインと組織

第1章では、デザインが組織にどのような価値とメリットをもたらすかを紹介しています。組織におけるデザインの評価を行うための方策や、デザインのプロセスモデルについても触れています。それでは、「復習の問い」と解答例を見てみましょう

Q1 デザインは組織に様々な価値をもたらす。デザインを通じてどこで価値が創造されるかを,正確に述べることができるか。

デザインは技術を利用者のニーズに結びつける役割を果たす。さらに消費者やエンドユーザーに歓迎される幅広い価値提案を実現する力を本質的に持っている。デザインは組織(供給)と市場(需要)とを結びつける強力なリンクであり、利用者が漠然と考えている要求や、まだ本人も気づいていない要望を上回る革新的な体験を創造することができる。

Q2 組織,とりわけ中小企業にとって,デザインを導入するうえでの主な障害は何か。

中小企業の多くは規模を拡大する能力を持ち合わせておらず、その要求もないのが現実であること。また、人的にも財源的にもデザインに投資する余裕がないこと。

Q3 デザインに対して賢明なアプローチを取っている著名な組織の例を示せるか。それらの組織は,どこでどのようにデザインを高度なレベルで活用しているか。

サムスン電子。企業のブランディングから製品のデザインに至るまで、トップダウンで企業を変革させて大きな成長を達成してきている。

Q4 民間セクターと異なり,利益を主な優先課題としない公共セクターの組織では,デザインがどのように価値をもたらせるか。公共セクターの組織には,医療機関,交通機関,教育機関などが含まれる。

行政のサービスを効果的に開発し提供する上で、デザインは大きな役割を果たせる。
有意義な体験を創造して医療サービスを向上する、利用者を中心に置いた学習環境を考慮したシステムを使って、質の高い教育を実現するなどの価値をもたらすことが可能。
また、政策課題の解決に際しても、利用者と共創しながらの課題の設定から解決策の提案を、デザインを用いることで実現することができる。(「利用者起点での問題定義」から「解決策の共創的な探求」まで ex. 総合計画の策定時など)

Q5 Nosiboo* の事例において,デザインがどのように国際市場での地位の強化に役立ったか。
*ハンガリーで開発された鼻水吸引器。2014年にプレステージの高い国際デザイン賞である「レッド・ドット・デザイン賞」の医療機器部門を受賞。

2年にわたる製品開発とデザインコミュニケーションを通じて、他の国際ブランドが販売している製品とはまったく異なる通気方式をもつ鼻水吸引器を産み出した。さらに、これらの特徴を優れたデザインで支え、デザインコミュニケーションにも注意を払った。
その結果、国際デザイン賞である「レッド・ドット・デザイン賞」の医療機器部門を受賞し、ハンガリーですべての高級ベビー用品店とドラッグストアで販売されるようになり、ほぼ完全な流通販売網を確立しただけでなく、ヨーロッパの8カ国にまで広がっている。

Q6 デンマークのデザインラダーは,組織にデザインを統合していく際の4つのステージを示している。組織がこのデザインラダーを上がっていこうとする際に,短期的および中期的に直面する課題には主にどのようなものがあるか。

特定の製品のデザインから、全社的なプロセスのデザインを実践するに従って、ステークホルダーが増えて調整に難航すること。投資金額が増加してくること。

デンマークのデザインラダー
デンマークのデザインラダー(本書第1章より)

Q7 デザインマネジメント・インスティテュートの DMI デザインバリュー指数は, デザインの成熟度を示す枠組みである。事業計画を策定する活動において,どこでどのようにこの指数を使うことができるか。

デザインが現時点でどこに価値をもたらしているかを評価するための枠組みをもたらす。また、将来のデザイン目標を策定して導入するための基本情報としても機能させることができる。
DMI デザインバリュー指数は、包括的なデザインの測定法と投資の枠組みを提示していることから、デザインによるイノベーションのための活動を目的とした戦略的計画策定プロセスで使えるようになっている。

デザインマネジメント・インスティテュートの DMI デザインバリュー指数
デザインマネジメント・インスティテュートの DMI デザインバリュー指数(本書第1章より)

Q8 イギリスのデザインカウンシルは,デザインプロセスのモデルとしてダブルダイヤモンドを開発した。その4つのステージは何か。

4つのステージは、「発見」、「定義」、「開発」、「提供」である。

  • 「発見」:観察やリサーチによって検討対象となるサービスやそのユーザーに関しての洞察を得る段階
  • 「定義」:解決すべき課題とそれを解決する方針とを定義する段階となる。
  • 「開発」:前段階で定義した課題または解決方針に基づき、具体的な施策を形にして検討していく段階
  • 「提供」:開発段階で検討されたアイデアを施策として実施していく段階となっている。

デザインカウンシルの「ダブルダイヤモンド」モデル
デザインカウンシルの「ダブルダイヤモンド」モデル(本書第1章より)

Q9 ダブルダイヤモンドのモデルは,公共セクターがエンドユーザーに提供するサービス体験を向上する目的でどのように使用できるか。

エンドユーザーである市民の実際の動きを細かく調査することにより、有効な提案及び戦略的開発を目指すことができる。また、アイデアを絞り込むことにより効率的な開発が遂行でき、市民に有効なサービスを提供することができるようになる。

Q10 ダブルダイヤモンドのような他のデザインプロセスのモデルには,どのようなものがあるか。それらはどこがどのように異なるか。

代表的なデザインプロセスもデザインモデルは下記であるが、HCD や一般的な PDCA などのプロセスモデルと比較しても大きな差はないと考えて良いと思われる。
重要なのはデザイナーが行うような「思考法」であることであり、いずれも初期フェーズに重点を置いている。

第2章:デザインマネジメントの実践:ケーススタディ

第2章では、デザインが組織の変化に有意義なかたちで寄与した数々の事例を紹介し、変化を触発する様々な形態が示されます。ここでは普段私たちが知ることの少ない欧州での取り組みが6社の事例として紹介されています。

Q1 Novabase* : 会社の文化を変え,イノベーションとリスクテイキングを刺激するために,デザインをどのように活用したか。
*Novabase はポルトガル最大のITコンサルティング会社。

  • 会社の進路を修正するための新しいコーポレートビジョンとして「シンプルでハッピーな生活を人と企業にもたらす」を掲げ、人間中心アプローチを通じて、デザインをITプロジェクトに導入し、ユーザーのニーズを満たすとともに、人間味のあるわかりやすいものに変えていくことを目指した。
  • そのために、デザイン思考を以下の4つのビジネス文脈で活用した。
    1. 企業文化の変革
    2. サービスの変革
    3. セールスのプロセスの変革
    4. ITプロジェクトの実践プロセスの変革

Q2 Novabase: 顧客へのサービスにデザインが真の差別化をもたらしたのは,具体的にどの点だったか。このアプローチは,この業界の他企業も実践することができるか。

  • 顧客との契約で多数のことを取り決める複雑なスタイルではなく、既製のサービスをポートフォリオにして提供した。これにより国外市場への輸出もはるかに容易になった。
  • このアプローチは、業界の他企業も実践は可能だが、国外での販売の際のリスク、時間、コストを削減することを目的とした大型のサービスデザインのプロジェクトが必要となる。

Q3 Filisia* : 社内のプロジェクトチームは,新製品のコンセプトに関するエンドユーザーの潜在的なニーズを完全に理解するために,どのようにデザインを活用したか。
*Felisia はギリシャのスタートアップで、障害者向けに遊び心のあるインタラクティブ体験を開発している。

  • 療法士と患者を対象とする定性的なリサーチに取り組み、聞き取り調査、フォーカスグループ、ユーザー観察などを実施した。
  • この際のアプローチとして、ユーザーのために開発するのではなく、ユーザーが開発する、あるいは「ユーザーがデザイナー」というスタンスをとった。
  • ソリューションのプロトタイプ複数を開発し、フィードバックを受けながらの提案の要素の絞り込みなど、インタラクティブな開発手法で取り組んだ。

Q4 Filisia: この新製品がもたらした他の「ソフト」なメリットは何だったか。この製品の USP (ユニーク・セリング・プロポジション) [P.52 参照] という点で,これらの要素が重要だと思うか。

  • 使って楽しいだけでなく、ユーザーの動きのスピードや滑らかさについてのデータを収集。療法士や保護者にレポートを提供し、能力開発の進捗状況を知らせることができること。
  • USP の点からは、「ユーザーがデザイナー」というアプローチを取ったことで、人間工学的に優れたシンプルかつフレキシブルな製品、異なるニーズの人たちにとって使いやすい製品が出来上がったこと、さらにデータを活用した他のサービスデザインにつながっていくということにあり、重要だと考えられる。

Q5 Donatantonio* : 伝統的な B2B の会社が B2C ブランドとして戦略的事業転換を図るに当たって,どのような課題に直面するか。
*Donatantonio はイギリスの食品の卸売・流通で地中海地方から輸入した製品をイギリス国内で販売しており、100年以上の歴史がある。

一般消費者が直接アクセスできるブランドが無いといった課題。

Q6 Donatantonio: 非常に競争の激しい市場と見られ得る事業環境にあって,時代に合った魅力的なブランドであり続けるために,会社にどのようなメカニズムの導入を提案できるか。

  • 事業と市場を詳細に分析し、どのような市場価値が得られるかを常に話し合うこと。
  • 加えて、持続的なブランドを構築するために、ステークホルダーに対してストーリーをしっかりと感情的な表現で伝えていくこと。

Q7 Wilfa* : ブランド再生の古典的な事例: このリブランディングのプロジェクトの成功にとって欠かせない重要な要素は何だったか。
*Wilfa はノルウェーの製造業で、家庭陽の小型家電、特にキッチン用品を専門としている。かつてコーヒーメーカーの大ヒットにより、北欧地域の有名ブランドになったが、その後時間とともにユニークさを見失うようになっていた。

最初にブランドを定義し、それから製品の目標を定義した。それにより、確固たる戦略的基盤を固められた。

Q8 Wilfa: ブランド再生を成功させた結果,同社は現在,新市場への参入を検討している。新市場開拓を目指す際に陥る可能性のある落とし穴には,どのようなものがあるか。

潜在顧客がどのようなニーズをもって、何を期待しているかをわからないままに製品を出してしまうということ。

Q9 Brussels Airlines* : オンライン予約システムのデザイン変更の効果を,同社はきわめて定量的に評価した。顧客満足度をより確実に理解するために,ほかにどのような形式の測定をすることができたか。
*Brussels Airlines はベルギー最大の航空会社。

顧客インタビュー、アンケート、ユーザーテストなどの実施。特に顧客インタビューは、定性的な満足度についての情報を十分に得ることができる。

Q10 Cimbria Herning* : 同社は,デザインプロセスの中心に従業員を置いて,既存の製品ラインの再生を進めた。顧客やエンドユーザーも取り込むとしたら,このアプローチをどのように調整することができたか。
*Cimbria Herning は積込用シュートの専門メーカーで Cimbria グループに属する会社の一つ。

デザインリサーチを行い、顧客やエンドユーザーがどのように対象製品を使っているか、製品に期待しているものは何かについて、調査を実施することによって、より利用者視点での本質的なニーズに迫る調整ができたと考えられる。

第3章:デザイン活動領域:成功のための柔軟な戦略

第3章では、企業の事業戦略開発においてデザイナーがいかに「陰の立役者」になっているかについて解説しています。また、この章の後半では、新製品開発におけるデザインプロセスのモデルと、その各段階でのツールについても言及されます。

Q1 確実性と柔軟性の両方を備えたデザイン戦略を持つことが,(製品やサービスの種類,組織の規模を問わず)企業にとってなぜ重要なのか。

理論的なアプローチで、ユーザーが真に求めるニーズを見つけ出す確実性と、デザインソリューションそれぞれのメリットを評価・検討する際に柔軟性を持つことによって、さらなる成長の機会を得られるため。

Q2 戦略開発プロセスに対してデザイナーが寄与することのできる主なスキルは何か。

  • デザイナーは、混沌の状態にいること、不確定性、創発といった状況を得意としている。こうした状況こそがクリエイティブなインスピレーションをもたらすのであり、製品創造のプロセスに推進力を寄与することが可能。
  • デザイナーが備えている視覚化するスキル、様々な専門領域の「言語」や語彙を使ってコミュニケーションするスキル、専門知識をイノベーション活動のクリエイティブへ織り込んでいくスキル。これらは既存の価値に常に疑問を投げかける。再生し活性化するなどのスキル群も重要である。

Q3 IDEO はデザイン業界でもきわめて特徴のある社内のクリエイティブ環境をどのように醸成しているか。

IDEO ではしばしば顧客、メディア関係者、学生、研究者などがデザインスタジオを訪れてくる傍らで作業を進めている。このことは、新しい商品やサービス、事業戦略を考える際に、「それらが人々にどんな体験や価値を提供するのか?」、「なぜ人はそれを欲しいと思うのか?」といった問いについて徹底的に探求することにつながっている。

Q4 Rickards および Moger が指摘しているクリエイティブなリーダーシップの4つの特徴とは何か。

  1. 「ウィンウィン(win-win)」の関係、つまりチームメンバーに力と権限を与えるだけでなく、意欲ももたらすリーダーシップのスタイルを重視すること。
  2. チームメンバーに問題を解決するよう奨励するための戦略とテクニックを開発すること。
  3. 個人のニーズを眼前のタスクと整合させること。
  4. チーム全員で責任を負うということ。

Q5 グローバルなブランドや組織にはしばしば最高デザイン責任者の役職が置かれていて,取締役会レベルでデザインの立場を代弁している。この種の役職を設置する業界トレンドの背後にある要因は何か。

  • デザインの価値を真に理解する経営幹部や CEO が牽引する企業が、激しい競争環境において長期的に収益を上げ続けていること。
  • また、デザイナーは、事業計画のプロセスで今まで以上に重要な役割を果たすようになっており、新しい「未来」を発見し創造するうえで欠かせない独自のスキルと方法論の提供に寄与していること。

Q6 戦略形成にデザイナーを関与させるに当たって注意が必要な理由として, Olson ほかはどのような点を指摘しているか。

  • ゼネラルマネジャーは、デザイナーが直感的に会社の競争戦略を認識してくれるものだと期待すべきではない。
  • ビジネスの微妙さや複雑さに対するデザイナーの理解力を過小評価すべきではない。

Q7 戦略レベルでのデザインの導入を阻む4つの主な要素は何か。

  1. 近視眼的な文化のビジョン
  2. 不均整なイノベーションのビジョン
  3. 歪曲したデザインのビジョン
  4. 個人的な「壮大」なビジョン

Q8 戦略レベルの大局的なビジョンとプロジェクトレベルの日々の活動を結び付けることは,なぜ重要か。

事業戦略が成功するかどうかは、事業部門や全社レベルの戦略に基づいた意思決定や活動がミドルレベル、プロジェクトレベルで行われているかどうかに大きく左右されるため。

Q9 デザイン戦略を開発する前に社内のデザイン監査を行って主な強みと弱みを特定することは,なぜ重要か。

  • 社内の機会と社外の状況(機会と脅威)との間で、慎重に戦略オプションのバランスをとることが必要なため。
  • 組織内のデザイン活動に関する体系的な評価を行い、目標がどこまで達成されているかを見極め、改善の余地がある部分を特定することによって、正しい方向へ継続的に成長していくことが必要なため。

Q10 Francis はデザイン戦略を4種類に区分しているが,それらのアプローチの主な違いは何か。

  1. 位置付け:製品やサービスを市場で明確に位置づけるためのデザインとその使い方に重点を置く戦略
  2. 推進力:特定の業務能力をもっと向上させ、活用する戦略
  3. 敏捷性:市場の力関係によって変化する現状に呼応して、すばやく効果的に変化・順応する能力を養う戦略
  4. 「右へ倣え」:競合他社によく似た製品やサービスを導入して追随する戦略

第4章:デザイン戦略の実践:ケーススタディ

第4章では、第3章に呼応する形で、デザイン戦略の実践の側面に光を当てて、企業に大きな成果をもたらした5つのタイプの事例を紹介しています。2章と同様に、各事例の詳細なストーリーが解説されています。継続的に事業を成功させるための戦略的な駆動力として「デザイン」を活用する姿勢からは、事業成功のためのデザインマネジメントについて多くの知見を得ることが出来ます。

Q1 Eat 17 Bacon Jam* : この風変わりな製品のメリットを知らないオーディエンスに導入するために,デザインをどのように使用したか。
*Eat 17 Bacon Jam はイギリスの調味料やソースを有する家族経営の小さな会社。デザインを強調してユニークで覚えやすいブランドアイデンティティを作り出した。

  • 機知に富んだメッセージングと特徴あるグラフィックを組み合わせ,機能的にも感情的にも効果を発揮し,その上、小さなスペースでそれらを実現するアプローチを活用した。
  • デザインチームは,新しいラベルの瓶のモックアップを制作し,さらにプレゼン用の資料もデザインして,Eat 17 Bacon Jam のチームが商談で使えるようにした。製品の名前をできるだけ大きく黒地に白でデザインして,最大限に目立たせることにした。

Q2 Eat 17 Bacon Jam: 製品を新しい顧客に対して慎重に位置付けるうえで,ほかにどのようなマーケティング戦略を使うことができたか。

テストサンプルによる消費者への直接的なヒアリングを行うこと。

Q3 See.Sense* : 専門的な知識やノウハウを伝えた後の「派生品」のアイデアを得るうえで,ほかにどのような方法で顧客を使うことができたか。
*See.Sense は製品をエンドユーザーに結びつけるための主な手段としてデザインを活用したイギリス(北アイルランド)のスタートアップ。

限定した顧客に対して、直接的なユーザー行動観察やデプスインタビューを行うこと。

Q4 See.Sense: デザインのスキルギャップを克服し,アイデアを商業化するに当たって,この小さな会社はどのように問題を克服したか。

  • ベルファストのデザイン会社である Part Two と協力して,ユニークなビジュアル言語と強力なブランドを開発し、製品のアイデンティティとパッケージも開発した。
  • デザイン思考を初期の段階で取り入れ、潜在顧客から受けたフィードバックを製品開発に反映させた。

Q5 SPP/Edward Martyn Concrete Designs* : コンクリートの知識がないデザイン専攻の若い大学院生と協力したことで,会社にどのようなメリットがあったか。
*SPP/Edward Martyn Concrete Designs はコンクリート建材の設計・製造を専門とする会社で、顧客のニーズに耳を傾けそれに対応した事例。

  • 会社にクリエイティビティの重要性を持ち込むこと。
  • 新しいデザイン事業部門を設置し、デザインの側面からプロジェクトに取り組む部門ができたことで、新規事業が着々と開拓され、新しい製品ラインも開発しつつあること。

Q6 SPP/Edward Martyn Concrete Designs: 新しいデザインハブを開発するに当たって,どのような落とし穴にはまる可能性があったか。そのことを念頭に置いて,会社の経営陣は,どのようにデザインハブを会社に深く統合する計画を立てたか。

  • 社員のデザインに対する理解不足により、活動がしづらくなる懸念があった。そのため、経営サイドが積極的にデザイン思考を事業活動に統合した。
  • 製品開発責任者は引き続きリーダーシップをとり、シニアマネージャーを転籍させてデザイン部門のマネジメントの責任をもたせると同時に、新規事業の予測を財務計画にも組み込んだ。

Q7 Myddfai* : 高級路線に転換するために,どのようにデザインを活用したか。この戦略的アプローチは,一般的に何と呼ばれているか。
*Myddfai は地元ウェールズ産の原材料を生かした製品を製造・販売している。デザインアドバイザーと協力して、高級路線へ転換を図った。

  • デザインアドバイザーに新しいデザイン戦略のサポートを依頼し、自分たちが何を達成したいのかといった全体的な戦略を整理した。それにより、社内におけるデザインの価値への理解を高めた。
  • こうした路線転換は主に「ブランディングシフト(事業の位置付けを変え、未来を確保する戦略)」と呼ばれている。現在 Myddfai では、ブランディング、パッケージデザイン、Eコマースを拡大するためのデジタルデザインなどを専門家に外注している。

Q8 Myddfai: この会社のデザインの戦略的アプローチをデンマーク・デザインカウンシルの「デザインラダー」に当てはめるとすれば,どこに位置するか。

ステージ4:戦略としてのデザイン。

Q9 Feonic* : 業界知識の豊富なデザインストラテジストを雇い入れて,技術主導の会社を未知の市場主導の機会へと導くことにした理由は何だったと思うか。
*Feonic は、スマートマテリアルの制御・応用ソリューションを開発している。

デザイン経営により対象市場を広げ、技術の活用機会を増やし、より高収益な製品を提供して、売上・利益を増加させるため。

Q10 Feonic: すべてのケーススタディを見渡したうえで,中小企業がデザインマネジメントを実践しようとする際にしばしば直面する課題にはどのようなものがあると思うか。

経営者がデザインを戦略的に理解できず、スタイルや色を変えるといった表層的なものと思ってしまうため、必要な資金を回せないといった課題。

第5章:デザインのビジョン:国の資産

第5章では、デザインの活動を大局的に捉え、国レベルの活動を考察しています。デザインの重要性を企業に対して訴える「デザイン業界団体」の役割についても紹介しています。更に、国が資金援助するデザイン支援制度の現況も記述しています。

Q1 各国のデザインカウンシルが,製造業におけるインダストリアルデザインの振興のみに特化するのではなく,活動範囲や全体的な狙いを拡大している理由は何か。

デザイン思考が、イノベーションを刺激して、組織競争力を高めるためのツールとして捉えられるようになってきているため。

Q2 中国は,「メイド・イン・チャイナ」から「デザインド・イン・チャイナ」を目指す戦略を導入した。この政策転換の背後にある主な要因は何か。

  • 経済成長に伴い、デザインが経済成長の戦略的ツールとしての役割やアイデンティティに変わっていったこと。
  • 「メイド・イン・チャイナ」の時代は、非熟練労働者が、外国からの発注に対して多量の製造を行い、経済成長を遂げてきた。当時、「新しいデザイン」を考案することはリスクを取る行動だった。しかし、非熟練労働者が急速に減少し、持続可能な開発と知識経済が主流になり軽工業が存在感を失う中で「世界の工場」の地位を返上したことから、「デザインド・イン・チャイナ」への戦略転換が求められた。
  • 世界的にも、デザインによって長期的な経済成長とサスティナビリティや社会的責任を果たすことが可能といった見方ができてきたことに起因している。

Q3 EU は,加盟28か国すべてにわたる「デザイン主導イノベーションのための行動計画」を打ち出した。この変化を後押ししている外部要因は何か。

  • イノベーションを刺激して、組織競争力を高めるためのツールとしてデザインを振興することに重点が置かれるようになったこと。
  • 「デザイン主導イノベーションのための行動計画」の宣言においても、「ユーザ中心かつ市場主導のイノベーションのツールとして、研究開発のみならずデザインをより体系的に活用することで、ヨーロッパの競争力を高められる」とされている。

Q4 イギリスのデザイン政策は,公共セクターに重点を置いている。行政がサービスを提供するに当たってデザイン思考を導入することで,公共セクターの組織にはどのようなメリットがもたらされるか。

エンドユーザーである市民の詳細な調査を行うことによって、本当に必要とされるサービスを提供することが可能になるとともに行政効率の向上がもたらされる。

Q5 国によるデザイン支援制度は,主にどのような人たちに恩恵をもたらしている
か。

主に中小企業。国による支援制度により、個別の事情に適した専門的な知識やノウハウにアクセスすることができるため。

Q6 ユネスコ創造都市ネットワークは,世界を代表する都市のクリエイティブ業界を認識し称賛する。この創造都市に認定されるために都市が示さなければならない主な特徴は何か。

  • 認定カテゴリーは7つ:「クラフト&フォークアート」、「デザイン」、「映画」、「食文化」、「文学」、「メディアアート」、「音楽」。
  • このうち「デザイン」は、投資や支援の戦略的なレベルでデザインを重視する都市であるとことを示す必要がある。

Q7 韓国のソウルがデザイン創造都市に認定された主な理由は何か。

  • 主要業界をデザインに結びつけるために積極的に投資をしていて、数年間にデザイン業界だけで 170,000 件の新規雇用を創出したこと。
  • また、ソウルには広告関係者や、ゲームデザイナー、デジタルコンテンツ開発者などが数千人おり、国内外の技術進歩に継続的に寄与していることも理由と考えられる。

Q8 イノベーションとは,広い意味を持つ言葉である。それを念頭に置いたうえで,「クリエイティビティ」はイノベーション活動に対する貢献という点でどのような役割を果たすか。

画期的な新製品や新サービスにつながる新しいアイデアを生成する上で、大きな威力を発揮するということ。また、クリエイティビティは、慎重に管理する限りにおいて、生産性や業績向上にも貢献できる要因であるということ。

Q9 Mike Press 教授が論じたサービスデザインについての議論は,公共サービスの提供においてサービスデザインが果たす役割について説得力のある詳細な情報をもたらしている。サービスデザインは,住民へのサービスという観点から,ダンディー市の市議会に対してどのように寄与したか。

市政の責任者が街に出て、市民に話しかけ、行政サービスについての見方を聞くことにより、行政サービスの提供方法やプロジェクトの推進方法を再考する際に、デザイン主導のアプローチを率いることができるようになった。

Q10 サービスデザイン以外に,ダンディー市のデザインに対するコミットメントは,どのようなメリットをもたらしたか。

行政サービスを改善することで財政の黒字化をもたらしたこと。また、戦略的なつながりを構築し、進取の気性を奨励し、新しい可能性を模索するようになるといったこと。

第6章:成長とイノベーションのための道具としてのデザイン:メキシコのケーススタディ

第6章ではメキシコシティのケーススタディについて詳細を見ていきます。ここでは、マクロ、組織、個人のプロジェクトといった3つのレベルでのデザイン活動を確認していきます。また、国、産業、事業のレベルでデザインの影響を測定する方法の観点からの解説もあります。

Q1 メキシコは,米国との経済関係から恩恵を受けているが,これに内在する脆弱性もある。その潜在的な弱さとは何か。

米国と深い経済関係にあるため、米国の景気循環に左右されやすい上、石油生産への依存度が高く、外国から輸入する機械や技術を多用していることから、外部要因としての下降気流を受けやすいこと。

Q2 メキシコ政府は,主要業界のイノベーション活動を支援・奨励しているが,そうした活動を広めるうえでは課題を抱えている。その課題とは何か。

  • 資源採掘作業に多くを依存していて、新技術産業のサポートが不足。学会と産業界のコラボレーションが行われていないこと。
  • 専門知識を持った人は増えているが、メキシコが研究者や技術者の数を増やすために行っている投資は GDP の0.36%にとどまっていること。

Q3 デザイン業界は,メキシコの幅広い社会問題に取り組んでいる。この章に記載されているそれらの社会問題とは何か。

あいまいで透明性に欠ける政策プロセス、非効率な法的制度、中小企業を支援する財務リソースの不足、極度の貧困など。また、経済的、技術的および社会的にも伸び悩み、国の競争力ランキングを落としていること。

第7章:デザインの未来:変化のイネーブラーとしてのデザイン

第7章では、デザインを広い角度からとらえて、刻々と変化する社会と技術という文脈において、デザインが変化をどのようにして率い、そして変化にどう反応しているかを考察しています。変化する社会と技術の視点として、「デザインと技術の変化」「人口構成の変化」「消費者の変化」という3つについて取り上げています。特に、「消費者の変化」では CSR とデザインの関係や課題について解説しています。

Q1 急速な技術進歩の結果として組織は大きな変化に直面していて,特に新製品の着想法や開発法に影響が及んでいる。デザインは,これらの外部要因にどのように反応することができるか。

デザインは先進的な技術を早々に導入して、破壊的な脅威をビジネスチャンスに変えることができる。また、デザイナーは、潜在顧客も含めてユーザーの主体的なクリエイティビティを引き出すイネーブラー(影響力を与える存在)になりつつある。

Q2 物事を抜本的に変える新しい技術によって,既存の事業モデルが日々崩されている。この種の状況展開を特定し,そのための計画を策定するために,組織はどのような備えをするのがベストか。

  • 技術をデザインと生産のプロセスに組み込むこと。これにより、クリーンで効率的なオペレーションに向けて大きく前進し、技術的に進んだオペレーションに移行できるようになる。
  • 新しい技術を取り入れていくことのできる高いスキルを持った人材を雇い入れる。そのために、地域コミュニティへ働きかけて高等教育を整備し、人材開発と教育研修に投資することが必要となる。

Q3 社会の変化を受けて,明確に定義された市場が分散するようになっている。そうしたなかで,人口構成の変化に見られる流れを理解するために,規模の大小を問わず組織はどのようにデザインを活用できるか。

  • 多くの場合は、変化やトランスフォーメーションを起こしている分野に密接に関係している。そういった分野に対して詳細な議論と分析を行うことが必要。
  • 独自の文化アイデンティティを表現した経済国が登場していることから、デザイナーはローカル(地域的)な文化のニュアンス(微妙な意味合い)と、それに内在する微妙な価値観の理解も必要となってくる。

Q4 デザインの民主化が昨今のデザイン活動のキーワードとなっているが,実践的な応用において有意義な変化を起こすには,なおも未開花の潜在性が大きく残されている。このことを念頭に置いて,意思決定プロセスに大きな変化を起こすためにデザインの民主化をどこで使用できると思うか。

特に発展途上国において、新しい技術の利用によるものづくりやサービスのデザインが有効に使用できる。

Q5 ミレニアルは人口構成の大きな部分を占めるようになっているが,この層は一般に,大手小売店がこれまで用いてきた伝統的なマーケティングとブランディングの戦略には反応しない。そこで,この難しいオーディエンスと結び付くために小売店はほかのどのような戦略を使用できるか。

30%以上が購入前にブログや他の購入者のレビューを見ていることから、ソーシャルネットワークの活用や口コミマーケティングなどを戦略的に検討することが使用できる。ただし、それらが必ずしも全てでなく、便宜的なものであることを同時に認識する必要がある。

Q6 グレーパウンド市場は,ニッチな製品とサービスを提供する企業に魅力的な機会をもたらす一方で,長期的な戦略としては本質的な欠点を内在している。この戦略の主な短所は何か。

年配の顧客はどこかの時点で高齢ゆえに必然的に製品やサービスの消費を止める、という点。

Q7 CSR の価値観と実践を導入することは,企業にとって巨大かつ複雑な取り組みとなる。これは主に,事業によって影響される人々や環境との関係を改善することを意味する。この活動のどこでデザインが役に立つか。

デザイン開発のプロセスはインクルージョン(関係者を取り込み、一体となってすすめるスタイル)な活動であり、そこでは対話と共感が重要な役割を果たす。そのため、CSR実施にあたっては、インクルーシブでホリスティック(全体的・包括的)なデザインの価値観と重なることから、より良い意思決定と問題への幅広い理解を刺激することになる。

Q8 CSR ガバナンスにおけるデザインの役割を特定したうえで,CSR の価値を認めることが,革新的なアイデアの開発にどのようにつながるか。

製品開発の初期段階から原材料やエネルギーを考慮したデザインを実施することによって、より革新的なアイデアを実現することができる。

Q9 Lynne Elvins は,事業計画活動におけるデザイン思考とデザイン戦略にかかわる意思決定プロセスを最終的に事業セクターが掌握するようになると,インタビューで述べている。この重要な役割において中心的な存在であり続けるために,デザイナーには何ができるか。

明確な専門知識を持つとともに、顧客との接し方に秀でる能力を身につけることで、経営課題の意思決定プロセスを支援することができるようになる。

Q10 ニュージーランドのデザイン統合プログラムは,6つの主な段階にわたって企業を育成した後,終了となる。これに7つ目の段階を追加して企業がプログラム卒業後もサポートされるようにするのが正しいやり方だと思うか。

正しいやり方だと考えられる。なぜなら、新しい技術が次々と登場してくる昨今では、技術をデザインと結びつけることでより良い製品を開発・提供していくのが重要で、継続的なフォローアップが必要であるため。

第8章:今後の展望とデザインマネジメントの未来についての議論

第8章では、専門領域としてのデザインとデザインマネジメントの未来について焦点を当てています。私たちの生活を高める手段であるデザインが、社会的・技術的な変化を踏まえて次なるステップとしてどこに向かうのかが考察されます。
中でも大きな動きが見られる領域として、医療分野とスマートシティについて考察しています。章の終わりには、中国におけるデザインとデザインマネジメントの発展と果たしている重要な役割について紹介されています。

Q1 事業モデルの継続的な調整や修正を組織に余儀なくしている外部要因には,どのようなものがあるか。

  • 社会と技術の複雑な作用による絶え間ない変化
  • 刻々と変わる政治環境:躍進する新しい経済圏と、劇的に再編されながらの経済圏の存在。
  • 技術の進歩:非常に速いスピードであるため、今日の新製品が明日には旧式に見えることも多くなること。
  • 社会変化の予測しづらさ:人口統計学的なグループがマクログループといえるほどに細分化しており、定量化するのがほぼ不可能に等しいこと。
  • IoTの出現による組織構造の変化:バーチャルな組織は今後10年以内に標準的な事業慣行になると予測されていること。

Q2 時間は貴重な財産になりつつある。これによってどのような機会がスタートアップ組織にもたらされるか。

消費者は小売店が自分に代わって意思決定を下してくれることを要求することから、素早く動くことができるスタートアップ組織にとって、顧客の代わりに意志決定できるようなサービスを提供する機会が生まれている。

Q3 バーチャルな組織の成功を支える4つの特徴とは何か。

  1. パートナーの専門性やコアコンピタンスが、他の組織の専門性やコアコンピタンスと補完しあえること。
  2. 状況に素早く対応して行動することで、時間の重要性が高まっている現場の要求を満たすことができること。
  3. 情報ネットワークによって、地理的に離れた組織が協力関係を築けるようになること。
  4. コミュニケーション技術を巧みに使いこなすことで、関係を強化し確実に成功を導くこと。

Q4 公的医療制度はなぜ,エンドユーザーへのサービス提供のあり方を常に変化させていかなければならないのか。

高齢化、エンドユーザーの期待の高まり、技術進歩といった要因によって、医療サービスをどのように効率的に提供するのかといったあり方が変わってきているため。

Q5 Disrupting Dementia タータンのプロジェクトで,デザイン思考のどのような要素がプロジェクトの成功に寄与したか。

  • ステークホルダー(認知症患者の家族と友人、アルツハイマー・スコットランドのディレクター、理事、マネジャー、介護スタッフ)と共に共同デザインを行い、プロトタイプ(アセテートの試作版、リボンを使ったプロトタイプ、デジタルプロトタイプ)を作成したこと。
  • そのことによって、認知症患者による130以上のユニークなタータンのデザインを生み出すことができ、認知症患者が少しの介助でこれらの成果を生み出せることを証明したこと。

Q6 都市を「スマート」にするうえで,デジタル技術はどのような役割を果たすか。

デジタル技術革新を活用することで、市民へのサービスを向上することや、サステナブルな経済開発を刺激することなど、すべての人にとって魅力的な環境の実現に貢献している。

Q7 状況的犯罪予防の方策を実践するに当たっては,「文脈」に慎重に配慮する必要がある。それはなぜか。

犯罪のターゲットや製品を犯罪に耐えうるよう防御として強化するのではなく、具体的な状況に重点を置くことで犯罪に関わる機会を減らそうとすることが状況的犯罪予防の方策であるため。

Q8 犯罪予防のデザインのどのような特徴が,デザイン思考と異なるか。

犯罪予防のデザインは、「ユーザーフレンドリー」ではなく、「ミスユーザーアンフレンドリー」、すなわち悪用する人にとって使いにくいデザインを考えるという点において。

Q9 世界中の製造を請け負う立場から移行しようとする中国の野心の基本には,どのような戦略的動機があるか。

デザインによって事業活動とパフォーマンスを向上させることで、国の経済成長と社会革新を支えることを狙っている。

Q10 中国に見られる様々なレベルのデザイン活動には,どのようなものがあるか。

デザイン価値の測定の枠組みである「デザインラダー」を用いて様々なレベルのデザイン活動について調査したところ、下記が確認されている。

  • 産業界におけるデザインの活用度が最も進んでいるのは北京、上海、深セン、広州の四大都市。
  • 「戦略としてのデザイン」は、中国の大手企業、特に多国籍企業では一般的に見られる。イノベーション部門を設置する西洋のモデルに準じて、大手企業が社内にデザインリサーチセンターを開設している。
    地方政府レベルでは政策策定のプロセスでデザインが検討され、財務支援を受けている。生産性の高い「クリエイティブデザイン産業パーク」が多数開発されている。
  • 「プロセスとしてのデザイン」は、産業が発達した東海岸の7省に主に見られる。イノベーションが重要な役割を果たす技術製造業で、生産工程を最適化し、新しい技術生産の価値を特定して消費者に伝えるために、デザインが使われている。東海岸では多くの地方政府が、街のイメージ作りと外国投資の誘致にとって重要な手段としてデザインを活用している。
    内陸平野部は、全般に経済・社会開発が平均的なレベルであり、ここではデザインは主にスタイルとして認識され、見た目や人間工学的な側面を良くすることが大半のデザイン活動の主な目標とされている。
    残りの中国西部では、今も生活水準が国の最低基準を下回っていて、表面的なレベルを超えてデザインの使用を考えることはほとんどない。
  • 中国全体としては、意識的・計画的なイノベーション活動としてデザインが戦略的に事業導入されるまでには、まだ長い道程があると予想される。

いかがでしたでしょうか。
書籍を一通り読み終わったら、各章末の「復習の問い」への解答にぜひ取り組んでみてください。そして、本書の理解を深めるとともに、デザインマネジメントの取り組みの推進にお役立ていただければと思います。
「私の組織ではこういった形で『復習の問い』を活用しました!」といったご報告をお待ちしています。