「UX戦略フォーラム 2017 Summer」イベントレポート
2017年8月7日、ソシオメディアは「UX戦略フォーラム 2017 Summer」を開催しました。
今回のUX戦略フォーラムは「マネジメントからみたエクスペリエンスの価値」をテーマに国内を代表する企業のエグゼクティブを迎え、講演とディスカッションが行われました。
事業経営戦略としてのCX推進活動 ― KDDI(au)における本格的な導入事例と今後の展望 菅隆志氏
KDDIのCXOである菅隆志氏は、エクスペリエンス・デザイン導入の経緯を、コンシューマビジネスが売上高・営業利益の75~80%を占める自社の状況やモバイル通信市場の現状、他業界と比較したNPSの低さなどを示しながら解説しました。
続いて、CX活動の取り組みについて、「点のお客さま満足向上」の活動から「線のお客さま体験価値向上」の活動へ、「あたりまえ品質」から「感動品質」への変化を紹介しました。
2014年、社長のトップダウンにより社内横断プロジェクトとしてスタートし、ペルソナやカスタマージャーニーの可視化などを行ったSTEP1。
2015年、CX推進部の設置による組織改革やワークショップの実施、一部の代理店を巻き込んでの活動までをSTEP2。
そして、対外的にも事業戦略の転換として「お客さま体験価値を提供するビジネスへの変革」を発信、CXO任命やロイヤルティプログラムが発表された2016年をSTEP3として紹介しました。
社内での理解を高めるために作成されたという動画では、ユーザーの気持ちを示すゲージとともに様々な利用シーンが登場。
機種変更、店舗での対応、紛失時やスマートフォン購入時など、利用者の状況と気持ちの変化が視覚的に表現されていました。
CX活動の意義を、ブランド体験価値向上を軸に、価格と体験価値、ブランドの差別化、なりわいの進化の観点から解説。
また、今後の課題としては、社員への理解浸透や、間接的な部署の巻き込み、NPS引き上げのドライビングファクターの見極めや対応策の優先度付け、トラッキング手法の最適化、成功体験の共有などを挙げました。
最後に、結果がでるまでに時間のかかる取り組みであること、そのため「目に見える結果」を継続的に出していくことを今後の展望とし、さらなるスピードアップを目指すことが語られました。
ビジネスイノベーションにおけるデザインの価値 藤川修氏
NECのビジネスイノベーション統括ユニット担当の藤川修氏。これまでの業務に関する話から講演がスタートし、現在の活動につながる事例を解説しました。
1988年に入社し、証券会社向けのシステムのセールスエンジニアであった藤川氏。金融専用の営業マン向けの店頭端末の開発では、最先端、話題性などが話題になる中、まず店舗を見に行き、カウンターの長さを測り、店舗内の導線を確認したエピソードを紹介。
店舗の事務スペースは狭く、ユーザーの足元に端末がおかれていること、排気の熱で虫がわいているといった現場の生々しい話をヒアリングしたこと、営業の方々が気持ちよく仕事をするために何度もモックアップを持っていってはダメと言われ調整を繰り返したことなどを、「今思えばデザイン」と語りました。
また、APEC地域の金融機関向け事業の立ち上げ時の話として、西はインド、東はオーストラリア、人種、言葉、宗教が異なるお客様を相手にしていたことを紹介し、同じものはなかなか売れないと感じていたことを話しました。
ミャンマーで空港から乗ったタクシーは、窓が割れ、床が抜け、鉄板が見え、街には日本の中古車が走り横浜市営バスが看板そのままで走っていたこと、リヤカーのズタ袋でお金が運ばれる様子を目の当たりにしたことなどを紹介。
そのような中で「勘定系のシステムをこのままで現地にもっていっていいのだろうか?」と感じたといい、現地の文化を知ることの重要性を説きました。
また、本社のコーポレート直下に移管したデザイン部門について解説では、メンターもいない、外部と組むこともなかった状況から、社内のエコシステムを作ることを目指したこと、デザインセンターもその一環でできたことを説明しました。
これからの価値創造に必要なことを、「変動する社会」「進化する技術」「不変である人生観」の3つの視点から解説し、最後は人の視点が大事と強調しました。
そして、デザインの価値を「顧客/社会の価値をデザインし、チームや顧客と共に形づくる力」の視点で説明。「本質的な課題の探索」「ステークホルダーとの共創と目標の共有」「素早く形にして市場で評価」という点を事例とともに解説しました。
研究所と取り組んだ例では、発想をひろげるためにデザイナーが参加したことや、ペルソナやカスタマージャーニーマップを作成しながら特許技術のビジネスモデル検証を進めたことを紹介しました。
現場観察として、デザイナーが農園に行ったり、インドの貧困層の治安の悪い地域に行った例を紹介。
そして、グラフィックファシリテーションについて、国際間のプロジェクトでは特に有効だと感じていると話し、最後に、多様なデザイナーが集まることがイノベーション創出につながということが語られました。
デジタル時代の経営におけるデザインの役割 湯嶋彰氏
東芝のデザインセンター長、湯嶋彰氏は、自身の歩みを技術、経営、デザインの視点から紹介。それらを取りまとめていくことの重要性を語りました。
これまでのデザイン戦略について、最初に社長とはじめた全社的なプロジェクトから解説。
「東芝ブランドが感じられるデザインへ」を目指したデザイン・アイデンティティのコンセプトとともに、電球からパワープラントまで多岐に渡るものづくりを行う中で、デザインを統一していく流れを紹介しました。
東芝のUXDプロセスとして、ビジョンの構想から実施まで、着想と可視化、検証を各フェーズで繰り返していることを解説。
デザインの対象が多岐に渡っている例として、重量子線治療システムの事例が紹介されました。
装置といっても病棟一棟を建設する大きな規模。装置だけでなく患者さんの不安を取り除くことを意識し、タスク分析を行い、治療室の環境がどうあるべきかを考えたとのこと。
また、デザイナーがビジネスとテクノロジーの視点を持つための活動が紹介されました。
それまでは依頼されたものをデザインするだけであったデザインチーム。技術面や事業面への関心が薄く、アイデアが広がらなかったと言います。しかし、アイデア発想のプロセスを変える活動を約5年継続し、今では様々なアイデアが出るようになったと話しました。
次に、デザイナーのアイデアに共感する研究員と商品企画を行う社員がタッグを組んだ事例を紹介。
3Dスキャンを使用するネイルチップ注文サービスについて、着想から実現へ実証実験を繰り返しながら企画を推進中とのこと。「デザイナーに Business と Technology をインストール」することが「次世代の人財・事業創出」につながると語りました。
そして、デザイン業務の領域について、家電の意匠部からはじまった「色・かたちのデザイン」から、幅広い分野で総合的な顧客価値のデザインへと拡大していることを解説。上流/下流、BtoB/BtoC/新規事業という視点でデザインが広がっていることを説明しました。
3.11がきっかけとなった事例では、エネルギーのデザインを紹介。水素をコンテナサイズにし、外観は子どもでも描けるものにするなど、その背景を解説しました。
最後に「デザイン、ビジネス、技術、お互いにそれぞれを知らないと負けてしまう」と語り、「ダイバーシティな組織」の重要性を強調しました。
対談:「マネジメントからみたエクスペリエンスの価値」
朝岡崇史(株式会社ディライトデザイン)× 篠原稔和(ソシオメディア株式会社)
ゲスト 菅隆志氏(KDDI株式会社)、藤川修氏(日本電気株式会社)、湯嶋彰氏(株式会社東芝)
はじめに、朝岡氏が「マネジメントからみたエクスペリエンスの価値」として、中長期的なお客さま基盤の強化、企業文化の刷新、なりわいの転換の視点から解説。KDDI、GE、UNDER ARMOUR、NVIDIA の例を交え説明しました。
企業文化を短期間で変えるためには、人を入れ替えること、トップの方から意識を変えることが重要であるとコメント。また、業界の垣根を越えてくる企業が強力なライバルになるのではないかと語りました。
その後、朝岡氏とソシオメディア代表の篠原によるトークセッションが開始。
活動のポイントとして朝岡氏は、個別最適ではなく全体最適の重要性を指摘しました。
朝岡氏がコンサルティングを行っている企業では、組織のサイロの壁が高いことが多いと言い、「お客さんと向き合わないから関係ない、となったら終わりになってしまう。そのためCEOに組織横断のタスクフォースを作ってくださいとお願いしている」と語りました。
担当する事業部だけでなく、経営者の視点でも、自分たちが提供するエクスペリエンスがどうあるべきかを考えることが重要だと話しました。
その後、登壇したゲストが加わり意見交換を行いました。
組織的なデザイン活動をスタートした当初は不安もあった、スモールスタートをした、マネジメント層へデザインの歴史から説明した、といったエピソードも語られました。
また、デザインの組織化活動をトップダウンで一方的に進めるのではなく、タスクフォースの参加者には顧客の気持ちになって一連の体験をしてもらい、気づいたことをメモしてもらうなどの取り組みも紹介されました。
一方、土台やエコシステムを作ることが重要であり、社内での理解は進んでいても成功という観点ではまだまだ満足していない、人材育成が課題であるなど、今後のさらなる活動を予感させる議論となりました。
ラウンドテーブル&名刺交換会
登壇者と来場者が BtoC と BtoB の話題で分かれ、それぞれで活発な意見交換が行われました。
活動を推進するスタッフのスキル、推進組織の規模や構成、社内のほかの組織への関わり方、専任か兼務か、インハウスか外注かなど、業種などの視点も含めながら活発な議論がなされました。
ラウンドテーブルの終了後、各登壇者よりトップやミドル、現場のマネジメント層の理解が重要と語られました。
最後に湯島氏が「今回お話した内容はうまくいっている部分。たくさん失敗もしている。めげずに大きい目線で。」と来場者に語りかけ、幕を閉じました。