2017年のUXにまつわるトレンド: 5人のUX専門家とCEOの予想
2017年のUXのトレンドについて予測する時期になりました!(訳注:原文は2016年12月に執筆されました)以下に記載したトレンドは私と他4名のUX業界を牽引する専門家およびCEOより伺ったものです。今回のお話を伺った専門家は Apogee 社の代表であるダニエル・シュツ氏、Google 社 Google Cloud Platform デザイン責任者であるラス・ウィルソン氏、Loop11 社のCEOトビー・ビドル氏、そして TryMyUI のCEOリトビジ・ガウタム氏です。
あなた自身が考えていること、そして他の(より賢い)UX専門家とCEOが2017年とそれ以降のUXやユーザビリティについてどのように考えているかを学びましょう。
私は、毎年年末になると、魔法使いの帽子をかぶり、UXの水晶玉を見つめて、次の年のトレンドを出来る限り予想します。しかし当然のことながら、私個人の声はこの広い世界の中で小さいため、UXの世界に身を投じている、私よりも賢いUXの専門家やCEO達に意見を聞くことにしています。
前置きはこの辺にして、以下が私と他4名のUX専門家およびCEOが考える2017年のUXにまつわるトレンドです!
2017年のUXにまつわるトレンド – クレイグから
1.「オムニチャネルUX」がUXの中で存在感を増してくる
オムニチャネルとは何でしょうか? それは(デバイスではなく)チャネルをまたいだユーザー体験を考えることです。例として、車を購入する人がいるとしましょう。彼女はモバイル端末で検索を始め、デスクトップで本格的なリサーチを行い、ディーラーに電話して特定の車の在庫を聞き、ディーラーを訪れ、車を購入します。
この例で登場したチャネルは以下のとおりです。
- オンライン(モバイル&デスクトップ)
- 電話(面白いことに携モバイル端末を使っています)
- 対面(販売特約店)
ここで注目してほしいのは、これらがチャネルであり、デバイスではないことです。デバイスはチャネルにアクセスするために用います。ブランドというのは、あらゆるチャネルにおいて一貫した体験を提供できるかどうかが全てです。ですので、UXチームが、どのようにして全てのチャネルをまたいで、一貫した、スムーズで、ハッピーな(満足の上をいく)体験を提供できるのかについて、多くの対話を行う(もしくは今後行う)ことは自然なことと言えるでしょう。
皮肉かもしれませんが、この「オムニチャネルUX」の定義は「本来のUXの定義」(私の考えではほとんどのUX専門家は理解していないのですが)とほとんど一緒です。「UX」はオンラインでの体験に限って定義されていることが多く、またほとんどのUXチームはそこに注力しています。
一体なぜこんなことになったのか!
とにかく、実際に「オムニチャネルUX」に取り組んでいくことは難しいことでしょう。なぜかというと、ほとんどの企業はこのような形でチャネルを眺めるようにできていません。私がコンサルティングの仕事でご一緒する企業の多くは、それぞれの製品ラインでチャネルごとに部署やユニットが分かれていることが多いからです。ですから、多くの企業では「オムニチャネルUX」を実行する前にまずそのことへの理解から始めなければなりません。しかしながら、重要なことはオムニチャネルUXについての議論を多く耳にするようになったことです。そしてオムニチャネルUXの話題は更に加速して盛り上がっていくと思われます。
2. VRとARは引き続き進出し、実用化にむかう
VR(バーチャルリアリティ)とAR(拡張現実)はゆっくりと、しかし着実に実用化が進んでいくと思われます。現在のところはまだ「アーリーアダプター」フェーズにあるテクノロジーで、世界中で広く実用化されるにはまだ何年か先のことだと思います。ただし、ARとVRの領域には、この領域でポジションを狙う有名な企業から約2億ドルの投資があることは無視できません。これらのテクノロジーはUX領域の大きなゲームチェンジャーになることは確実で、これらがどのような仕組みなのか、今後どのような進化をしていくのかを理解しておく必要があるでしょう。
3. ヨーロッパ、東欧、イスラエル、そしてインドでUXの才能をもった人材の育成と活用が進む
以前にも触れたことがありますが、このトレンドは確実で大きくなってきていると言えます。コーダーやUX専門家は世界的な現象になってきており、私の UsafulUsability Facebook ページではヨーロッパとアジア出身のファンが多くの割合を占めています。私の WordPress テンプレートは主にトランシルバニアで活躍する才能に溢れた男女によって作られました(そう、あのトランシルバニアです)。そして幸運にも、最近オーストリアのグラーツで開催された 2016 年の World Usability Congress で講演をする機会を頂きました。そこに来ていた参加者はヨーロッパ中、世界中から集まった大変優れたUX専門家たちでした。私はUXの採用と投資は世界中のほとんどの場所でとても大きくなっていると感じました。ですので、ヨーロッパと東欧でUXの領域が広がり続けるというのは明らかです。
4. UXチームはUXの定義を間違い続ける
最後に、これは最初に申し上げた予測と繋がりますが、UXチームはUXの定義を間違い続けるでしょう。UXデザイナー、リサーチャー、もしくは開発者にUXの定義を尋ねると、2つの現象が起こります。ひとつめは、一つとして同じ定義は出てきません。ふたつめは、ほとんどの人がUXをオンラインに限った狭い領域で定義します。残念! UXは初めてブランドに触れた時から最後に関わるときまで、ユーザー体験全てを含むもので、全てのチャネルに渡ります。これは私が思いついたものではありませんよ。UXの父として知られるドナルド・ノーマンがそのように定義しているのです。UXチームと彼らを支えるエグゼクティブがUXをオンラインという小さい箱におさめている限り、ユーザー体験を最適化するために本来持っている力は抑えられたままとなるでしょう。それを変えてみませんか? そのためには、全てのUX専門家の考え方を教育し、UXが全てのユーザー体験を示すという気づきを与え、思い出させ続けなければなりません。
2017年のUXにまつわるトレンド – 4人のトップUX専門家より
さぁ、UX専門家およびCEOが考える2017年に注目すべきUXのトレンドをご紹介します。
トビー・ビドル
トビーはリサーチャーやデザイナーの複数のデータニーズに応える為のUXリサーチツール群を提供する Loop11 社のCEOです。
ビジネスはモバイルファースト/モバイルオンリーデザインを採用する。モバイルファーストとはウェブサイトをデザインする際のプロセスで、モバイル端末を優先して考え、その後で大きなスクリーンに適用していくことです。これは決して新しいことではありませんが、モバイル端末の普及は早く、インターネットのブラウジングで最も使われる端末となりました。これにより、ほとんどのビジネスはモバイル端末のみのデザインを検討し、デスクトップウェブサイトでの提供を停止するという動きも出てきました。
AIはVRやARよりも早く採用される。2017年にVR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)が大きなトレンドになることは予測していますが、より実践的なAI、バーチャルアシスタント、デジタルコンシェルジュはもうすぐそこまで来ています。最も注目すべきはSiri、Alexa、Cortana、Google Now、その他。この領域に注力するスタートアップや企業が増えてくることは、まず間違いないでしょう。
エクスペリエンスは更にパーソナライズ化する。UXがついに予測分析を活用してインテリジェントなUXデザインを行えるようになり、かつスマートなバーチャルアシスタントとしてユーザーの前に姿を現したことで、ユーザーの意図や行動に基づくニーズ、そしてデバイスからのセンサーデータが予測可能になり、エクスペリエンスは更にパーソナライズ化されるでしょう。
しかし、これは最初のステップにすぎません。ウェブサイトのレイアウトが横幅の大きいスクリーンのデバイスに最適化してきたように、コンテンツや構成も様々な年代に最適化されていくことでしょう。今後のウェブサイトはフリーサイズ的な発想では通じなくなっていきます。
リトビジ・ガウタム
リトは TryMyUI の創設者兼CEOです。TryMyUI は、モデレータを必要としないリモートのユーザビリティツールで、ユニークな自動動画分析の機能をもっています。AIアルゴリズムを介してセッションの「スコア」を記録し、すばやく簡単に分析を行えます。
私が思うに、2017年のUXトレンド、もしくは少なくともユーザーリサーチのトレンドは、ユーザーリサーチャーが抽出するユーザーデータの積極的な見直しと、UXチームの生産性を図る指標の見直しにあります。
これまでは、「解約率」「CTR」や「獲得マップ」などが Google Analytics を通してマーケティング指標としてみなされていました。これらの指標はあなたのUIを通したユーザー行動の結果でもありました。
2016年には、Pendo.io や MixPanel といったツールがUXチームで多く採用されています。その理由は、これらのツールは Google Analytics のようなデータを収集するのですが、ユーザーの課題をプロダクトチームに示すために、再度ビジュアライズしてくれるからなのです。私たちは TryMyUI ストリームを同じ理由で公開しました。例えば、ユーザーのフラストレーションになっている要素といった指標を企業に示せるようにしました。更に、コンバージョン率に関するUXのマントラはUX関係者の中での注目度が確実に高まってきたといえます。
2017年には、これら「マーケティング」指標からの洞察にUXチームにアクセスできるようになり、これらの指標に対するデザイン上の意思決定の影響が測定可能性の向上につながりました。すなわち、企業は、成功するUIデザインが何なのかについて行動データの用語を用いて再定義し始めるでしょう。2017年は、このような変化によって、成功条件の客観性とUXチームがデザインの意思決定を確実にするための方法を持つことから、より多くの企業のステークホルダーに対して、UX予算を強化することに自信を持たせるようになると確信しています。
ダニエル・シュツ
ダンはアジアで一流のデザイン・UXファームである Apogee 社の共同設立者です。彼はとても人気のある書籍『Global UX』の共著者で、UXPA 中国香港支部のファウンダーでもあります。彼は講演も多く、ユーザビリティ、UX、CX、そしてそれらをビジネスにどう適用してくかといった分野の専門家です。
私たちは、インタラクションを決めるテクノロジーに影響を受ける一方で、同時にテクノロジーは、私達の日常の根本をなすことから遠ざけるものでもあります。具体的には人々のモチベーションを理解する部分などです。
意味のある仕事をする
仕事におけるプロジェクトでは、成果物にとらわれたり、納期におわれたり、ステークホルダーや彼らの視点やエゴに影響を受けたりして、UXの「U」とは何かを忘れがちです。
「U」とは私達がデザインを届ける人のことであり、私達の日々のプロジェクトの議論の中に偏在させていなければなりません。
プロジェクトには、ある継続的・定期的なルーチンが組み込まれているべきです。そのルーチンとは、私達がデザインを届ける人々について理解すること、また、ユーザーがタスクを完了するのに最もいい方法を提供するために、私達がつくりだすものとの接点や意味付けを理解すること、また感動の瞬間がどこにあるかを探ることです。そして、プロジェクトが継続的に学び、改善するためのフィードバックループを提供することも重要です。
点と点を繋げるために。
私達がデザインを届ける人々がプロジェクトの議論に登場し続けるように手助けするためには、意義のあるプロジェクトコミュニケーションを育むためのルーチンやツール、人工物、実践を確保する必要があります。
私たちはそのプロジェクトが誰のためのデザインを行っているかを明確にする責任があります。そしてこのことが意味のある仕事をするに注力するためにはどうすればよいか、の助けになるでしょう。
ラス・ウィルソン
ラスは Google Cloud Platform のUX責任者で、素晴らしいUXデザインチームを率いてきた豊富な実績があります。ラスはさまざまな国内外のUXカンファレンスで講演を行っています。Googleの前は、Microsoft、IBM、そして CA Technologies でUXデザインチームとイノベーションチームを率いていました。ラスのUXに関する考えは彼の Twitter フィードでチェックできます。
私の意見は偏っていますが、AIに関することと、AIがどのようにUXに関わっていくかについては、非常に注目しています。ユーザーのアクションやゴールを予測できることにより、どのようにエクスペリエンスをより良くしていけるのでしょうか?このことはとても大きなことだと考えます。
2017年のUXにまつわるトレンド – まとめ
2017年のUXにまつわるトレンドに関する皆さんの予測をまとめると、いくつかの共通点に注目できそうです。
ポイント1: UXテクノロジーと利用方法の変化(AI、AR、VR、そして更にパーソナライズされたアプリケーション)が意味すること。それは、私たちは最終的に、誰のための体験を作ろうとしているのかを忘れてはならない、ということです。そう、人々のために。私たちは自分自身にこれらの新しいテクノロジーを使うのは人間だと言い聞かせ、これは何においてもまず頭の中に入れて置かなければなりません。新しいテクノロジーの驚くような機能に溺れてはいけないのです。
ポイント2:「UX」とユーザーエクスペリエンスデザインは引き続き世界中で大きな注目を集める。これはとても良いことです。つまり、世界中でより多くの人々がより使いやすい、より満足度の高い、そしてより私達の生活を良くするデザインへの欲求と関心が高まっていくことを意味しています。デザイナーが自分自身を成長させるかぎり、また自分たちがデザインを届ける人々に対して同調するかぎり、また効率的で効果的なUXを届けるための最良の方法を採用する限り、優れたUXはどこからでも出てくる可能性があります。
ポイント3: 行動データ、マーケティングデータ、そして様々なUXデータはよいデザインのためにより重要な(そして必要な)ツールとなるでしょう。既にデザイナーはデータを収集・分析・統合することをUXデザインの一部に組み込まなければならなくなっています。データなしに行う空虚なデザインは当て推量にすぎません。デザインに影響を与えるまたは影響を受ける行動データへの深い理解を基盤にしたデザインは、ユーザーエクスペリエンスの質を高めるためによりよいアプローチといえるでしょう。
(画像は Flickr Creative Commons License 配下の Kevin Vertucio 氏よりお借りしました。)
未来のUXを考えるイベントを開催します
2017年秋のUX戦略フォーラムは「世界のメソドロジストによるエクスペリエンスアプローチ」と題し、海外から6名、国内から2名のスピーカーを迎え、デザインメソッドや最新事例など、様々な立場での取り組みやエクスペリエンス推進の考え方を共有します。
本フォーラムはヨーロッパを中心に展開する大規模なUXカンファレンス「World Usability Congress」の World Tour と共同で開催します。本記事を執筆したクレイグ・トムリン氏、およびインタビュー対象の中のおひとりであるラス・ウィルソン氏は本イベントでそれぞれ講演を行います。
- クレイグ・トムリン氏(UXリサーチャー UXPA オースティン地域元代表)「ユーザー行動データとユーザビリティデータを用いてWebサイトを最適化する方法(Using Behavioral UX and Usability Data to Optimize Websites)」
- ラス・ウィルソン氏(Google 社 Google Cloud Platform デザイン責任者)「UXに関わる最も重要な3つの課題とその解決方法(The Top 3 Problems in UX Design and how to solve them)」
皆さんのご参加をお待ちしております。
詳細・お申込み:https://www.sociomedia.co.jp/7508
日時
2017年10月1日(日)9:00〜18:15
会場
東京 ユビキタス協創広場 CANVAS(東京都中央区新川2-4-7)
スピーカー
- ジョー・ランジセロ 氏(元ウォルト・ディズニー・イマジアリング社 クリエイティブ担当役員)
- ラス・ウィルソン 氏(Google社 Google Cloud Platform デザイン統括責任者)
- クワン・ミン・リー 氏(南洋理工大学 教授・元サムスン電子社 デザイン担当 Vice President)
- 平山 信彦 氏(株式会社内田洋行 執行役員 知的生産性研究所所長)
- 上野 学(ソシオメディア株式会社 取締役)
他計8名の登壇予定
※英日/日英の同時通訳あり