GUIでないUIのデザイン

川添 歩
2009年12月25日

今年は、PCの画面のUI評価・設計ばかりでなく、ケータイ(iPhone、Android含む)やテレビ(テレビ画面とリモコンをインターフェースとするセットトップボックスなどを含む)、フォトフレーム、デジタルサイネージなど、様々な機器の画面のUIに関わらせていただきました。
クライアントとお話をさせていただいて感じるのは、ほとんどの場合、画面上に見えるものの課題はそれなりに感じておられるものの、実際に操作する部分にあまり注目されておられないことが少なくない、という点です。
ユーザーが指やペンなどで操作をする、その方法です。ケータイやリモコンなどのようにキーやボタンを使う場合は、どのような種類のキーやボタンがあり、それらはどのような配置であり、どのような大きさで配置されているのか。タッチインターフェースを持つものの場合は、併せ持っているタッチ以外のインターフェースとの使い分けをどのように意識しているか。

ケータイやリモコン、あるいはゲームのコントローラなど、キーやボタンが主なインターフェースである場合、ユーザーの視線は、それらと画面との間を行ったり来たりします。

一方PCでは、ユーザーが手元を見て操作することはほとんどありません。キーボードに慣れていない人がキーを確認することはありますが、少なくともマウスをユーザーが注視することはありません。
そのため、PCの画面設計に慣れている設計者は、手元で起きていることを見落としがちです。

ユーザーの手や指の動きと視線の動きに着目しなければ、画面上のUIの設計や改善は限定的なものになります。
その着目からスタートして、ユーザーのメンタルモデルを読み取る必要があるのです。

イノベーションだけがデザインじゃない

もちろん本来は、製品の企画段階から、ハードウェアのUIと画面のUIを一連のものとしてデザインすべきです。その時点での設計思想やコンセプトがないと、少なくともイノベーションを起こすことは困難です。たとえばGUIは、画面のどこでもすぐに、かつ正確にポイントできるマウスの発明とともに生まれて一大革命を起こしました。「電話を再発明」したとするiPhoneの、ほとんどすべての操作をタッチのみで行うというコンセプトは、指のわずかな動きをも感知するセンサーの存在が大前提です(ホーム画面へ行く操作だけは物理的なボタンにする、というのも、非常に強力なコンセプトに基づいていると思われます。このことが画面デザインにおよぼしている影響は強大です)。

とはいえ、いつもイノベーションが必要とされているわけではありませんし、実際問題として大半の製品の設計では、すでにあるハードウェアを利用する必要があったり、コストやスケジュールの都合上、ハードウェアを一から設計する余裕がないものです。
しかしその場合でも、いや、むしろその場合だからこそ、ユーザーがどのようなモノによって操作をするのか、そのモノの反応速度はどの程度なのかといった、ハードウェアのUIを前提とし、それらに対してユーザーが何をしているのかをまずじっくり検証しなければなりません。すでに存在するUIに課題を感じているならば、画面上で起こっていることだけでなく、手元で起こっていることにもよく注目しなければなりません。

テンキー、フルキー、リモコンで操作する画面のユーザビリティ

そういえば今年は、「マウスを使用せずにキーボードだけで操作をする」システムの評価とデザイン提案もさせていただきました。
世の中のインターフェースの開発者の多くは、マウスによる操作を前提としたUIに影響を受けすぎていて、マウスを使わないシステムの場合でも、意味なくGUIの文法や表現を取り入れてしまっていることが少なくありません。
タッチ、キー、ボタンなど、マウスを使わないインターフェースで画面を操作する際の解もまた、ユーザーの行動をよく観察することと、ユーザーインターフェースの原則に立ち返ることにあります。といいますか、あらゆる良きユーザビリティは、そこにしかありません。
マウスを使わないUIデザインの経験がわれわれの中で蓄積されていけばいくほど、われわれ自身もまたそのことを実感するばかりです。