UXの未来 – 次に来るものは?

World Usability Congress
2017年9月1日
原文: “THE FUTURE OF UX – WHAT’S COMING NEXT?” by Johannes Robier [2017-3-21](翻訳: ソシオメディア株式会社)

UXの未来 – 次に来るものは?

この質問に応えるためには、UXデザイナーとはどんな職業なのかを定義する必要があります。この点に関してはこれまでも多くの議論を見聞きしてきましたが、どうやらUXデザイナーとは、異なるタッチポイントのためのインタラクションデザイナーのことのようです。UXデザイナーとは、スクリーンデザイナーまたはGUIのデザイナーと考えられることが多いですが、UXの世界やUXコンサルティング会社では、ユーザーリサーチ、インタラクションデザインを提供するだけでなく、ソフトウェア、ツール、サービスのGUIデザインまで担っている場合もあります。このような場合、UXデザイナーは真の「プロダクト駆動型」デザイナーといえます。そこまでは良いでしょう。では、なぜこれが変わらなければならないのでしょうか?

“なぜならば、未来は変わる。教育も変わる。”

テクノロジーは私達の生活を同質化します。数年前からサービスのデジタル化がスタートしました。これがUXの重要度が高まっている理由であり、教育の現場ではUXのノウハウをさまざまな生徒に教えています。リーンUX、スクラム、リーンスタートアップは、誰もがユーザー中心設計(UCD)のプロダクトを開発できるように教えています。大学ではスタートアップラボ、イノベーションラボ、FABラボでこの考え方を教え始めています。UXデザインは社会的スキルになっていくでしょう。このような中、私達UXデザイナーに何が起こるのでしょうか? 将来UXデザイナーが重要となる環境はさまざまです。

最初に、UXデザインは成長領域であり、UXが共通した社会的スキルになるためには更に数年の時間がかかるであろうということを認識しなければなりません。UXデザイナーは今の仕事場であと数年間は働くことができるでしょう。簡単なユースケースはイノベーションマネージャーやプロダクトマネージャー自身が設計するようになることでしょう。複雑なソリューションを求められる場合は向こう10〜15年間はUXデザイナーが必須です。しかし、UXデザイナーが今後フォーカスすべき領域は多岐にわたっていくのです!

UXデザイナーがこれからフォーカスすべき6つの新しい領域は以下のとおりです。

1)シームレスなインタラクション

私たちは同一または異なるシステムとさまざまなインプットを通して関わります。システムに話しかけるか、サインを送るか、タッチするか、VRでコミュニケーションするのか、脳で制御するか、はたまた昔ながらのマウスやキーボードなのかは関係ありません。未来では、どのインプットシステムもインテリジェントな「インプットルーター」をもち、あなたの用件を適切なテクニカルメッセージに変換するようになるでしょう。これは、操作方法に依存せずに、システムがあなたの情報を理解するようになるということです。私達の生活に必要などのシステムに対しても、文脈的な情報の転送が可能になります。全てのデバイスは繋がり、私達の行動を把握するのです。

UXデザイナーの挑戦は、私達の生活の中、そして顧客との関わりの中で、シームレスなインタラクションのコンセプトを作り出すことなのです。たとえあなたの仕事が、たくさんあるシステムのうちのひとつでしかなくても。そのことから、これが典型的な未来のUXデザイナーの姿となります。

  • 未来の “UXデザイナー”

2)Mixed Reality(複合現実)

先日、Adobe が論文を発表し、その中で mixed reality(MR:複合現実)が2020年の鍵になると述べました。これまでより多くのハードウェアがバーチャルリアリティと繋がっていくでしょう。もしかしたら、AR(拡張現実)のために、デジタルレンズを一日中つけているようになるかもしれません。このテクノロジーは人々の日常生活を変えます。人々がAIに話しかけていたり、道端でおかしなジェスチャーをしていたりしたらどのように見えるでしょうか? これでは、人間らしくありませんね・・・

私たちは、日常生活を不安にすることのないようなインタラクションをデザインしなければなりません。音もせず目立たないようなインタラクションとはどのようなものでしょうか?

他の方法としては、さまざまな映画に出てきたようなスタンドアローンなソリューションを作り出すことです。これは部屋のコントロールまたは典型的な BtoB ソリューションのユースケースとなるでしょう。未来においては、たくさんの VR & AR UXデザイナーが必要になります。

  • ARのUXデザイナー

3)AIの先生

AI(人工知能)は重要なトピックです。もちろんUXの文脈においては特に重要なトピックとなります。私達の将来の肩書きは「AIの先生」となるでしょう。システムに典型的なパターン、パーソナライゼーション、人間のインタラクションを覚えさせる。私たちは異なるシナリオや異なるユースケースをどのように解決すべきか、長い時間をかけて、AIシステムに「教育」しなければならないのです。それは既にチャットボットから始まっています。彼らをパーソナライズする。彼らが私たちに話しかけるようにトレーニングする。くだらない質問への答え方を教える。そしてチャットボットが人間的な答え方をしていない場合、悪いチャットボットとなるのです。うーむ。なぜ私たちはテクニカルなシステムを人間らしくしたいのでしょうか? 私達が人間だからでしょうか? これがUXデザイナーの3つ目のチャレンジです。AIの先生になること。

  • AIのUXデザイナー

4)生涯にわたる会話のデザイン

ビジネスは人間関係のようであるといえます。お互いをきちんと思いやらなければ、違う方向に進んでしまいます。これは生涯にわたる会話とも言えます。すべてのことは第一印象から始まります。もしあなたのパートナーにいい印象を与えられなければ、会話を始めることはできません。それから短い会話が続き、共通の興味を見つけたら更に深い話題へ進んでいきます。もし同じビジョンや同じ考え方を持っていれば、付き合いが始まっていきます。そして友人関係を継続するために定期的に会わなければいけません。

UXビジネスデザイナーの仕事は、お互いの関係のインタラクションを作り出すことです。私達の会話はどんなムードなのか? どんな話題を提供すればよいのか? どのようなデジタルインタラクションから始めれば良いのか? これはビジネスの販売プロセスを個別化するプログレッシブ・ペルソナマッピングから始まりました。

将来的には、BtoC、BtoB の顧客との関係全体をデザインすることになるでしょう。ですから、もうひとつの肩書は以下のようになります。

  • ライフサイクルデザイナー

5)真実の瞬間へのフォーカス

ユーザーエクスペリエンスとカスタマーエクスペリエンスは一つの肩書に統合されていきます。リーンスタートアップは、全ての企業にユーザーと対話する責任があること、そしてユーザー中心設計(UCD)のプロセスやアジャイル開発を実行すべきと教えています。ですから、近い将来、今よりももっと多くの人が素晴らしいプロダクトをデザインし創造していくことになります。なぜならUXは全てのプロダクトマネージメントの仕事の一部となるからなのです。UXデザイナーとして、私たちは「真実の瞬間」に責任を持っています。「オンボーディング」から「オフボーディング」まで、 あるいは「使い始めのハンドブック」から「販売後のキーとなるインタラクション」まで、全ての重要なタッチポイントがUXデザイナーの責任となるのです。なぜならこれらのインタラクションは素晴らしいものでなくてはなりません。これは、どのようなビジネスにおいても必要な瞬間なのです。私たちは鍵を握るインタラクションを評価し、最適化していくことを担うのです。

Adobe の論文は、タッチポイントの最適化が私達のビジネスの重要な指標になるということも示しています。

プロジェクトを進めながらそれらを計測し、最適化するのは、将来の重要なそして必要不可欠な仕事のひとつになるに違いありません。

  • KPUXデザイナー(キーパフォーマンス UXデザイナー)

6) スローUX

速いものを遅く見せること。私たちはプロセスの最適化、文脈的デザイン、情報の優先度について常に悩んでいますが、それにともなってUXも異なっていきます。将来的に、スローフードのような「スローUX」が存在感を高めてくると考えられるのです。
AIを始めとする膨大な量の情報や情報プロセスの集中は人間に負荷をかけます。ビジネスの世界では速くなるかもしれませんが、プライベート環境ではむしろスローになっていくでしょう。広告や私生活のプロセスは異なるコンテクストを結びつけて、新しいデザインをもたらすことでしょう。人々は特定の情報に焦点を当てなければなりません。AIは情報を作りますが、私たちは決断を下すためにそれらを理解する必要があります。ですから、もしコンピューターが速くなるならば、AIはスローな情報も届ける必要があるのです。それも少ない情報を異なるメディアとのインタラクションの組み合わせによって。人間は全ての時間において効率的になりたいとは思っていないのです。
スローUXはストーリーテリング、情報の表現、そして異なるものを組みわせるビジュアライゼーションにおいて重要なトピックとなります。さて、誰が世界で最初のスローUXデザイナーになるのでしょうか?

  • スローUXデザイナー

未来のUXを考えるイベントを開催します

2017年秋のUX戦略フォーラムは「世界のメソドロジストによるエクスペリエンスアプローチ」と題し、海外から6名、国内から2名のスピーカーを迎え、デザインメソッドや最新事例など、様々な立場での取り組みやエクスペリエンス推進の考え方を共有します。
本フォーラムはヨーロッパを中心に展開する大規模なUXカンファレンス「World Usability Congress」の World Tour と共同で開催します。本記事を執筆したヨハネス・ロビアー氏は今回の World Tour をとりまとめると同時に来日し、「“NASA product of the year” を受賞する製品をデザインする方法と私達が学んだこと」のタイトルで講演も行います。
皆さんのご参加をお待ちしております。

詳細・お申込み:https://www.sociomedia.co.jp/7508

日時

2017年10月1日(日)9:00〜18:15

会場

東京 ユビキタス協創広場 CANVAS(東京都中央区新川2-4-7)

スピーカー

  • ジョー・ランジセロ 氏(元ウォルト・ディズニー・イマジアリング社 クリエイティブ担当役員)
  • ラス・ウィルソン 氏(Google社 Google Cloud Platform デザイン統括責任者)
  • クワン・ミン・リー 氏(南洋理工大学 教授・元サムスン電子社 デザイン担当 Vice President)
  • 平山 信彦 氏(株式会社内田洋行 執行役員 知的生産性研究所所長)
  • 上野 学(ソシオメディア株式会社 取締役)

他計8名の登壇予定
※英日/日英の同時通訳あり