『エクスペリエンス・オーケストレーション』出版に際しての著者たちからのメッセージ

篠原 稔和
2024年10月8日

書籍『エクスペリエンス・オーケストレーション』の書影

ソシオメディアが翻訳、私が監訳した、書籍『エクスペリエンス・オーケストレーション』の著者のお2人から、出版に際してのメッセージを送っていただきました。そこで、本書への導入の手引きも兼ねて、ここにご紹介します。

日本の皆さんへのメッセージ

『エクスペリエンス・オーケストレーション(原題:Orchestrating Experiences)』の執筆は, より優れた製品, サービス, 組織を生み出すに違いない, と私たちが考えているコンセプトと実践例を共有する機会となりました。本書が, オーケストレーターを目指す一人でも多くの方々の手に渡ることを願っていることから, 翻訳書の出版によって日本の実践者がより一層活用しやすくなることを, とても嬉しく思います。

そもそも本書の英語版は 2018 年に出版されました。この間, 世界的なパンデミックにより協働のための仕事の方法が混乱し, 本書で紹介しているアプローチの多くは, ハイブリッド環境下でより効果を発揮するものへと進化してきています。そこで, 本書の主要コンセプトを実践するうえで, 現在において役立つ新しいアドバイスをご紹介いたします。

許可を待たないで

ほとんどのオーケストレーターたちは, 「指揮棒」を渡されるといったことがありません。期待されていることを実行するための小さな機会を見つけては, そこから何か新しいことに挑戦するために余分な努力を費やします。日本の丸山幸伸氏の「Business Origami®」のアプローチにヒントを得た「サービス折り紙」(本書65ページ)などの新しい手法やツールを実証することは, オーケストレーションのアプローチの価値を具体的に示す証拠となります。

人々が今いる場所で出会おう

組織内の誰もが, よりよいエクスペリエンスをオーケストレーション(編成・組織化)する役割を担うことができますが, そのためには, それぞれが今いる場所から個人的なジャーニー(旅路)に手をつけねばなりません。様々なステークホルダーを巻き込むための戦略を練って, 彼らが組織における「集合的な未来」に向けて一歩を踏み出せるようにしていきましょう。

ストーリーテリングを極めよう

ストーリーとストーリーテリングは, 意味のある変化を推進していくうえで核心です。エクスペリエンスをオーケストレーションするには, 身の回りの世界からストーリーを集めて, 価値を提供していくうえでの障壁となるものを理解します。そして, 新しいストーリーを創造して, 人々のよりよいエクスペリエンスとなるような未来を構想するのです。そのうえで, ストーリーテリングの力を用いて, ほかの人たちを説得し, 鼓舞することで, それらのエクスペリエンスを現実のものとしていきます。ストーリーテリングの技術が上達すればするほど, より効果的にエクスペリエンスをオーケストレーションすることができるでしょう。

アーキテクトを団結させよう

アーキテクト(建築家・設計者)を団結させましょう。彼らはテクノロジー, エクスペリエンス, プロセスエンジニアリング, オペレーション(運用), さらにはファイナンス(財務)の世界で活動しています。アーキテクトは, 意図的なペースで動き, 物事の一貫性と継続性を高めるための内部および外部のパターンを探しているのです。アーキテクトたちは, 慌てて行動して物事を壊してしまうような人々によって生み出される冗長性, 摩擦, ギャップなどをよく理解しています。そのことから, 組織のなかでこのような人々をぜひとも見つけてください。そして, 彼らとの間でオーケストレーションのコンセプトを共有してください。そして, あなたと一緒に新しい働き方を創り出す仲間として彼らを誘い出しましょう。

小さく始めよう(本当に!)

『エクスペリエンス・オーケストレーション』の最終章(「第11章 指揮棒を手にする」)には, 「小さく始める」(本書255ページ)という項があり, 「CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)の小さな部分を変更してビジョンに合わせていく」ためのいくつかのテクニックが紹介されています。このタイプのデザインは都市計画のようでもあります。ダイナミックな環境に合わせてズームアウトして体系的にデザインする必要があるのですが, 大規模な変更につながる小さな介入・干渉の機会を見つける必要もあるのです。今こそ, 有意義なステップを踏み出しながらも, より変革的な未来に向けて舵を切るといった, バランスの取れた努力を積み重ねてください。

最後に, 私たちの書籍を翻訳・紹介してくださった篠原稔和氏とソシオメディア株式会社の皆さんのすばらしい仕事に感謝します。そして, 読者の皆さんが組織にとって切実なまでに必要とされている「オーケストレーター」となるための一助となることを願っています。

2024年9月

Chris Risdon
Patrick Quattlebaum