「UPA 2003 カンファレンス参加報告」

2003年6月23日から27日の5日間、米国アリゾナ州スコッツデイルにおいて、第12回 UPA(Usability Professionals’ Association)カンファレンスが行われました。世界中の企業、大学、コンサルティングファームなどからユーザビリティの専門家が集まるこのイベントで、昨年に引き続きソシオメディアもプレゼンテーションを行う機会を得ました。

今年のテーマは「ユビキタス」

ウェブサイト、ソフトウェア、工業製品などの使い勝手を実現するための体系的な方法論が確立されてきている中、今年は「ユビキタス」をテーマとして、携帯電話、PDA、車載情報システムなどの様々なデバイスにおけるユーザビリティについて多くの研究発表や活発な意見交換が行われました。

参加者の延べ人数は約400人。5日間の期間中、23のチュートリアル、7つのワークショップ、36のプレゼンテーションを中心に、ポスターセッションやパネルディスカッションなどを含む豊富なプログラムが展開されました。

ユーザビリティは、ものづくりにおいて必須となる継続的な取り組み

多岐にわたる発表内容を通して感じたことは、ユーザーにとっての利便性を中心に製品やサービス開発を行うというユーザビリティの考え方が、米国ではすでに、企業のデザイン戦略、制作や運営の組織づくり、ユーザー分析、コンセプトモデリング、プロトタイピング、テスティングといった一連のサイクルを繰り返す、ものづくりにおける必須のプロセスとなっているということです。

そのようなプロセスが広く認知されるようになった現在、先進的な企業では、ユーザビリティエンジニアリングの ROI をいかに向上させるか、社内ユーザビリティチームと外部の専門家をどのようにマネージメントしていくか、といった運用面の課題に積極的に取り組みはじめているようです。

インターネットは分野やデバイスを超えたインフラとして定着

あらゆる分野においてインターネットがコミュニケーションの中心的な役割を担いはじめるのと同時に、これまでに蓄積されてきた、HCI(人とコンピュータとのインタラクション)、フィールド調査やリモート調査によるユーザー分析、専用ラボを使ったテスティングなどの研究が、すべてウェブサイトの開発にも役立てられています。

そのため今年のプログラム内容を見ると、「ウェブサイトのユーザビリティ」を強調するタイトルは逆に減少し、そのかわりにほとんどの研究テーマが何らかの形でウェブサイトの開発と関連づけられているという傾向が見受けられます。

アプリケーションとしてのウェブとテスト手法のバリエーション

ほとんどのウェブサイトが、単なるブローシャウェア(静的なカタログ状の情報提示)から何らかの機能性を持った動的な存在になるにつれて、アプリケーションとしての使い勝手や開発手法が強く求められるようになっています。しかし現状の HTML やユーザーエージェントでは、従来のデスクトップアプリケーションのような精細な GUI(グラフィックによるインターフェイス)を実現することが難しく、またネットワーク上で利用されることが前提となるために、サーバー処理の効率化やアクセシビリティの問題も継続的な課題として認識されています。

その一方で、ターゲットユーザーや利用環境が多様になるのに伴い、テスティングの手法にも多くのバリエーションが考えられるようになってきています。インターネットを経由したリモートテスティングの手法をはじめ、移動式の簡易ラボの設計、広範囲なオンラインアンケート手法、障害者用の支援機器や特殊デバイスによるテスト手法などの研究がさかんになっています。また、テスト結果の分析方法やテスト被験者のリクルーティングについてのノウハウも注目されています。

ソシオメディアのプレゼンテーション

ソシオメディアは昨年に引き続いて今年もプレゼンテーションを行いました。今回は「Reading/Writing Guidelines for Japanese Web UI」と題し、日本のウェブサイトにおける文字情報の表現や、フォームへの文字入力時におけるユーザビリティ上の課題について発表しました。ユーザビリティについて欧米の専門家が中心となって様々な研究が行われていますが、2バイト文字を日常的に扱う日本のインターネット利用にどのような問題があるのかということはあまり広く認識されていないため、製品やサービスの国際化が押し進められる昨今、このような話題は好意的に受け入れられたようです。

まず、世界第2位とも言われるインターネット利用者数(約7000万人)を有する日本において、携帯電話によるEメールや情報サービスの利用が非常に盛んであることを強調し、コンピュータや携帯機器による文字情報の閲覧と入力が若年層を中心に急速に一般化してることを伝えました。

しかしアルファベットの入出力を前提にデザインされている現在のコンピュータ機器は、2バイト文字を扱う CJK(中国、日本、韓国)言語環境においては多くのユーザビリティ上の問題を引き起こします。画面解像度や書体など視覚表現上の問題、かな漢字変換操作や入力モードの切り替えといった入力時の問題、文字コードや支援技術の対応といったデータ処理上の問題などの概要を知ることは、現行製品やサービスのローカライズ時、また将来のグローライゼーションの計画を適切に行うために重要であることを説明しました。

来年の開催はミネアポリス

毎年行われる UPA カンファレンスですが、来年の開催は2004年6月7日から11日まで、場所は米国ミネソタ州のミネアポリスです。ソシオメディアは、継続的に海外のコミュニティに参加しながら、インタラクティブメディアのデザインについて最先端の研究を続ける人々との交流を通し、そのノウハウを吸収していきます。また同時に、日本の状況や自社の研究を海外に向けて積極的に発表していきたいと考えています。