「ソシオメディア・フォーラム 2003年8月 実践事例から学ぶウェブ・アクセシビリティ」

去る2003年8月5日、東京都港区の TEPIA ホールにおいて、ソシオメディア・フォーラム2003年8月「実践事例から学ぶウェブ・アクセシビリティ – 富士通ウェブサイトのケーススタディ -」が開催されました。

フォーラムの概要

ウェブサイトのアクセシビリティに関して日本企業では最もその取り組みが実践レベルで進んでいるといわれている富士通株式会社のご担当者の方々をゲストに招き、実践事例のケーススタディを行いました。

同社の取り組みは、現在発売中の雑誌「Web Designing(毎日コミュニケーションズ)」7月号で紹介されていますが、記事誌面では伝えきれなかった部分も含めて具体的な実践事例が数多く紹介されました。

第一部 「富士通ウェブ・アクセシビリティ指針」

フォーラム風景の写真:大勢の来場者の前で講演する高橋氏の様子。

プレゼンター:富士通株式会社 高橋 宏祐 氏

  • アクセシビリティ対応に着手したのは、国際レベルでのデジタルデバイド解消に取り組む必要があったことと、日本を代表するIT企業としての使命感から。
  • 富士通ウェブ・アクセシビリティ指針」は日本でのアクセシビリティ普及にはずみがつくと考えて実装方法を公開したもので、実際には富士通グループのウェブガイドラインの中の一要素という位置づけである。
  • 実践においては、一般的に上層部の説得や運用体制の整備が課題となるが、富士通ではアクセシビリティ対応以前から、ウェブガイドラインを富士通グループ全世界に規定として周知徹底させていた。グループ全体にウェブの戦略・企画を推進する組織もあったので、アクセシビリティ要素をガイドライン改版時に盛り込むことで比較的スムーズに運用できた。
  • 指針として公表したことによる対外的なPR効果も大きく、ブランドイメージの向上や新しいビジネスチャンスの獲得にもつながっている。
  • ガイドラインの目的は策定することではなく運用することにある。製品などと同様に、各担当部署が作成したサイトの品質をガイドラインを基準に厳しく審査する体制を整えており、クリアできなければ公開できないようになっている。
  • ウェブの世界は、”経験知”や”暗黙知”の固まりであり、個人に依存しているケースがほとんどである。しかし、担当者が変わったらそのメーカーの製品の品質が変わるというようなことは普通ありえない。ウェブサイトを企業活動に組み込む以上、その品質についても個人のスキルやノウハウに依存しないよう同様に考えるべきである。
  • 実践してみて感じているのは、アクセシビリティに取り組むことで制作工数が効率化され、ユーザビリティ向上にもつながるというメリットがあること。デメリットは基本的にないものと考えている。
  • アクセシビリティは音声読み上げが注目されがちだが、日本においては高齢化社会に向けて高齢者対応がより重要になる。

第二部 「ウェブ・アクセシビリティの実装例」

プレゼンター:富士通アプリコ株式会社 石井 太朗 氏、田中 智子 氏、秋山 正樹 氏

  • グローバルに統一された富士通ポータルサイトのテンプレートにアクセシビリティ要素を導入するにあたっては、「構造化タグの使用」「スタイルシートによるデザイン制御」「音声ブラウザへの対応」「ナビゲーションのテキスト化」「スキップ・ナビゲーションの追加」「配色の適正化」などを行った。
  • 文字を画像化する際には、視認性の高いフォントを選択したり、背景色と文字のコントラストに注意したりするなどの配慮が必要である。
  • 公開前のサイト審査時に見られる問題としては、「記号による情報識別」「曜日などの省略表記」「単語内のスペースや改行」(いずれも音声ブラウザで正しく情報が伝わらない)が多い。
  • 画像に alt 属性を記述するのは当然だが、適切な内容が記述されているかどうかが重要。装飾目的の画像では値を空(””)にしたり、前後のテキストと内容が重複したりしないように配慮する必要がある。グラフなどの画像に対しては、代替テキストのエリアを別に設ける場合もある。
  • テーブルやフォームでは、THや LABEL といったタグを使って論理構造を示したり関連付けを行う必要がある。
  • 公開前にはチェックシートによる自己チェックと専任スタッフによる厳重な審査を行っている。これはアクセシビリティに限らず、ガイドライン全体にわたる品質の審査である。
  • チェックツールだけでは判定できない部分もあり、今後の課題としてそういったチェック項目に関する指導などの教育も必要である。

第三部 Q&A 実践事例から学ぶ

フォーラム風景の写真:壇上で会場からの質問に答える高橋氏、石井氏、田中氏、秋山氏の様子。

プレゼンター:富士通株式会社 高橋氏/富士通アプリコ株式会社 石井氏、田中氏、秋山氏/ソシオメディア株式会社 篠原、植木

  • 質問:グラフなどの画像や複雑な表組に対する代替情報の提供手段として、音声で読み上げた場合に理解しやすい文章を別に記載するという方法をとっているというお話でしたが、なぜ W3C のガイドラインで推奨されている「Dリンク」「longdesc 属性」「セルの関連づけ(scope、id、headersの各属性)」を積極的に使わないのでしょうか。
    回答:W3C のガイドラインに盲目的に従うことが最善とは限らない。例えば日本のユーザーのことを考えると、「d」という文字のリンクから「解説」の意を連想させるのは難しい。また、各種音声ブラウザの仕様も統一化されていないため、利用者の立場にたって現状の最善策を常に模索している。
  • 質問:富士通はアクセシビリティ診断ツールである「WebInspector」を公開していますが、富士通のウェブサイトをチェックする上で実際にこのツールを利用しているのでしょうか。
    回答:「WebInspector」は誰でも簡単にHTMLファイルのアクセシビリティを「富士通ウェブ・アクセシビリティ指針」をもとに診断することができるツールとして公開している。我々が社内で富士通サイトの審査を行う上では、以前から HTML 文法やスペルチェック機能を含んだより高度なツールを独自に開発して使っており、アクセシビリティに関するチェックもこれらに組み込んでいる。そのため、富士通サイトのチェックに「WebInspector」は利用していない。
  • 質問:「富士通ウェブ・アクセシビリティ指針」を公開したことによって、ユーザー側からはどのような反応があったのでしょうか。
    回答:国内外のユーザーから多くの反応があった。例えば「富士通ウェブ・アクセシビリティ指針」を見た医師の方から、指針内で使っている用語などについて指摘を受けたこともあり、実際にそれを反映して指針のバージョンアップを行った。また、関連する案件の受注も増えている。

その他、会場から多くの質問が寄せられました。

謝辞

当フォーラムの開催にあたり、後援をいただきました富士通株式会社、富士通アプリコ株式会社、Web Designing(毎日コミュニケーションズ)、そして約160名にのぼるご来場者の皆様に、改めて深く御礼申し上げます。

今後とも「ソシオメディア・フォーラム」を宜しくお願いいたします。