mixi のユーザーインターフェースガイドライン作成に協力[株式会社ミクシィ様]
日本最大の SNS「mixi」を運営している株式会社ミクシィ様ではユーザーインターフェースを重要なものと位置づけて改善活動を始めていらっしゃいます。その活動の第一歩として、現状の mixi(PC版)のUIカタログとしてのガイドライン作成をソシオメディアが協力いたしました。
今回インタビューさせていただきましたのは株式会社ミクシィ 開発部 デザイングループ 馬場沙織様、河野崇史様のお二人です。
デザイングループでは mixi のユーザーインターフェースの管理・設計、そして実際のデザインを担当されており、馬場様と河野様は今回のUIガイドラインのプロジェクトの中核を担われました。
株式会社ミクシィ 開発部
デザイングループ
馬場沙織様
株式会社ミクシィ 開発部
デザイングループ
河野崇史様
聞き手:ソシオメディア 上野 学
ソシオメディアはUIの重要性をアピールしていますので、日本最大の SNS である mixi 様から今回のプロジェクトのお話をいただいたときは非常にうれしく思いました。
まず最初に、本質的なところからお聞きしたいと思います。mixi はUIをどう位置づけていらっしゃいますか。
馬場様:mixi はウェブアプリケーションですからサービスとユーザーインターフェースは不可分で、ユーザーインターフェースを介さないとサービスを使ってもらえません。ユーザーインターフェースはサービスの価値の一部でもあるとも言えます。
サービスがヒットするか否かはサービス全体の設計が大きくかかわってきますが、そのサービスでできることがきちんとユーザーに伝わり、継続して使っていただくためには、ユーザーインターフェースも成功している必要があると思います。
河野様:B2B のシステムであれば使いづらくても使わざるを得ない場合がありますが、mixi のような B2C だと飽きられたらもう二度と使ってくれない。サービスを使い続けていただくために非常に重要な要素ですね。
馬場様:社内ではデザイナーだけでなくプランナー、ディレクター、エンジニアも含めて、ユーザーインターフェースがいつも議論の対象になっています。
非常にたくさんのユーザーが利用しているという観点からどのようなことに気をつけていますか。
馬場様:mixi にはたくさんのサービスがありますが、個別のサービスが単に集合しているのではなく、ひとつのまとまったものと認識されるようにサービス設計されています。
そして、これらのサービスはユーザー自身が「自分のもの」「自分がつくってきたもの」と感じてもらえるように設計されています。
この点から、ユーザーインターフェースを変えることはポータルサイトのように誰でもが入れる大きな公共の施設ではなく、ある意味他人の家を改築するようなことに通じる気持ちがして、とても気をつかいます。
1741万人以上(2009年6月30日現在)のユーザーがいますが、もちろん誰にでも使いやすくしていたいと思っています。
私たちはこういったサービスそのものや使い方に慣れていますが、自分の経験値と慣れていない人たちの差をちゃんと推し量って作りたいと思っています。
河野様:ほんとうにいろいろな人に使っていただいていますから気をつけています。
OSやメールソフトといった、よく使われているアプリケーションの操作から少し難易度を下げて考えることはあります。UIという面から、世の中でどんなものが普及しているのか気をつけています。
UIガイドライン作成の背景を教えてください。どんな課題があったのでしょうか。
河野様:サービスや機能を追加して拡大していくにつれて、さまざまなニーズに対応するために多種多様なUIが増えてきましたが、体系化はされていませんでした。
似たような機能なのに新しいUIを作ってしまうことが多数みられ、企画・デザイン・開発の工程で効率が悪かった面があります。
ユーザーからみても、同じことをするのにUIが異なって使いづらいこともあったと思います。
こういった背景から、UIの体系化が求められるようになりました。
馬場様:UIが体系化されていない状況はスタッフ間のコミュニケーションで補っていました。
同時並行で走るプロジェクトも増えてきましたし、スタッフも今後も拡大していくので、これまでのようなコミュニケーションでは対応できなくなってきつつあります。
UIについて体系化されたガイドラインがないとサービスの拡大に対応できなくなってきました。
河野様:今回のガイドラインは、現状のUIをカタログ的に分類整理してまとめることを目指しました。これで完成ではなく、まずは第一歩です。
UIガイドラインの構成や提供形態ではどのような点に気をつけましたか。
馬場様:「読みやすさ」が重要なポイントです。
全体の工程を効率化するためにはデザイナーだけでなく、まだUIについて詳しく知っていない人たちにも読んでもらう必要があります。
河野様:前半を基本ガイドライン、後半をリファレンスに分けたのも、あまり知らない人に抵抗なく読んでもらえるように考えた結果です。特にデザイナーではないディレクターや品質保証の方々にも負担にならないようにと考えました。
馬場様:また、提供する形態が紙だと読んでもらえないですね。社内でだれもが使っているドキュメント管理システム(wiki)に掲載し、1コンポーネント1ページなど読みやすさを考慮した構成にしました。
河野様:コンポーネントの名前は慎重に決めました。同じコンポーネントでも社内のあるグループとあるグループでは呼び方が違っていたりしまして、統一するための調整を行いました。
馬場様:ガイドラインの目的として社内での語彙を統一してコミュニケーションとしても効率化したいという目的もありましたので。
専門的に感じられるものは避け、すんなりと理解できそうな言葉を選びました。
ソシオメディアとガイドライン作成をコラボレートしていかがでしたでしょうか。
馬場様:ソシオメディアさんに作っていただいた目次構成がよかったですね、まず最初の柱になりました。
ウェブアプリケーションでの「作成」や「編集」といった区分がイメージにあったのですが、そのイメージをまさに目次構成として提示していただきました。
そしてこちらの業務の実態にあうようにチューニングしていただいたのですが、こちらのイメージにあっていて、お任せしてよかったな、大丈夫だなと安心しました。
河野様:大量にUIのキャプチャをとっていただき、また、分類整理をしていただいて助かりました。
ソシオメディアさんにざっと分類をしていただいて、「これはこっちのグループです」「これはもう使わないので削除します」という判断がスムースにできました。
完成して2カ月ほどしかたっていませんが、効果はいかがでしょう。また、今後の展開についてはどうお考えでしょうか。
河野様:デザイナー間ではすでに効果が現われはじめています。UIに対するお互いの解釈の差がガイドラインによってなくなってきていて、デザイナー間で質問の回数が減っています。
馬場様:まだ始まったばかりですので、これから浸透させていきます。まずは、UIについてこういった活動をしているとアピールできるようになったことが大きいですね。
今回のガイドラインをつくって、やはり、新しくつくるときにどう設計したらいいのかを示すデザイン指針が必要だ、と実感してきました。
新しいUIを作るとき、判断の基準も載せていきたいと考えています。
最後に、mixi のユーザーにとってこのUIガイドラインがどんな意義をもっているか、お聞かせください。
馬場様:ユーザーに対して魅力のあるサービスを数多く提供していくことも大事ですが、UIに気をつけていないと、一貫性がそこなわれてふるまいがわかりにくくなってしまったり、サイトの構造がわかりにくくなって迷ってしまうことになってしまいます。
mixi はユーザーが他のユーザーとコミュニケーションするための道具になっています。道具の質がコミュニケーションの質に影響し、サービス全体の質にも影響がでてくると思います。
やはり、ユーザーと mixi をつなぐUIをおろそかにしてはいけないと思います。
河野様:ヤフーさん等のポータルサイトのように情報が一方的に提供されるものではなく、mixi は CGM であり、ユーザーが自分の情報を上げている場所でもあります。ある意味でユーザーのもの、という感覚はありますね。
ユーザーが望むならボタンひとつひとつがバラバラでもいいと思うが、おそらくユーザーは望んでないでしょう。
ユーザーが望むもの、使いやすいものを作る助けになるものとして、今回のガイドラインがあります。
馬場様:サイトの操作性やデザインなどの一貫性を効率的に保っていけば、mixi で行われるユーザー間のコミュニケーションの質もあがると思います。
コミュニケーションに集中してもらうような「建付け」を作るのがわたしたちの仕事と思う。それを実現するためにガイドラインを助けにしてやっていきたいと思います。
ありがとうございました。
インタビューを終えて
ユーザーインターフェースの改善の第一歩として、現状のUIの整理・体系化から取り組む方法は、大規模ウェブアプリケーションのデザイン担当者にとって参考になるアプローチだと思います。
また、馬場様・河野様のお話を聞きながら、これからのデザイナーのスキルとして、品質の高いUIを効率よく運用していく「デザイン・マネジメント」が重視されてくると実感しました。
最後に、お忙しい中インタビューに対応いただきました馬場様・河野様に改めてお礼申し上げます。