金融系大規模システム構築プロジェクトにおけるユーザビリティ・コンサルティング[住友信託銀行株式会社様]

2009年6月30日

概念図。住友信託銀行株式会社様=業務システム統合刷新、住信情報サービス株式会社様=ユーザビリティ改善・RIA化、ソシオメディア=ユーザビリティコンサルティング。
プレイヤーとニーズ、ロールの関係。

概念図
解決ステップの時間配分。

住友信託銀行株式会社様と住信情報サービス株式会社様は旧来の営業店システムの統合・刷新にあたり、ユーザビリティ向上を目標のひとつに掲げて取り組みました。ソシオメディアの「ユーザビリティ評価」や「UI標準策定」など一連のユーザビリティコンサルティングサービスが活用されました。

「営業統合フロントシステム」概要

顧客データベース・勘定系システム等から情報を集め、預金やローンの残高、投資信託の運用実績、コンタクト履歴といった顧客へのサービス提案に必要な情報を行員に提供。

国内60以上の営業拠点、約6400台の端末で利用される、営業店でのもっとも重要なシステムのひとつ。2009年1月に正式稼働を開始。UIには RIA の Adobe Flex/ Adobe AIR、バックエンドとの高速データ通信に Adobe LiveCycle を採用。

期間:約5ヶ月

住友信託銀行様における課題

  • キャラクターベースのレガシーシステムや CRM パッケージなど、銀行のバックオフィスおよび店舗内の対面セールスで使用している複数の業務システムを統合刷新・リッチクライアント化するにあたり、ユーザビリティ上の課題が明らかになった。
  • 業務システムのユーザーが、これまでのベテランスタッフから、派遣社員などの業務経験の浅いユーザーに移りゆく中で、UIの改善により、マニュアルを用いた解説や人的なトレーニングコストを低減する必要が生じた。
  • これまでユーザビリティ向上活動の経験はなく、今回のプロジェクトによって、ユーザー側ではオペレーションコストやミスの削減、業務フローの標準化とそれによるCS向上、開発側では要件定義や画面設計効率の向上、ユーザビリティに対する意識喚起を行いたい。

ソシオメディアによる解決の提案

ユーザビリティに関する知識や認識の少なかった開発関係者の意識を変え、拠り所とするためのユーザビリティガイドラインを策定する。これによりプロジェクト当初からユーザー視点にたったUI設計ができるようにする。

各システムの現状評価を実施、抽出された問題点を認知工学的分析し、抽象度をもたせたデザインコンセプトとしてユーザビリティガイドラインを作成する。

要求定義・外部設計の上流で、開発者がUI設計を行うにあたり具体的なルールを提供するUI標準を策定する。これにより詳細設計・実装フェーズでのUIのばらつき・修正による手戻りを防ぎ、ユーザビリティの高いUIを効率よく開発できるようにする。

ユーザビリティガイドラインを基盤におき、RIAによるプロトタイピングを作成・評価・改善を繰り返しながら、並行してUIのルールを抽出しUI標準を策定する。

具体的な解決ステップ

  1. 現状分析(期間:約2週間)
    時代の異なる3つのシステムを単体で使用するユーザー、複数の連携が必要なユーザーなど、システムとその利用方法が複雑であるため、既存ドキュメントとシステムの分析を行った。

    1. ドキュメント調査:現行開発プロセス標準、システム仕様書などを受領して分析
    2. システムブラウズ
  2. ヒューリスティック評価(期間:約3週間)
    3つのシステムの連携にあたっての問題点、および個々システムのユーザビリティ上の問題点を抽出した。
  3. ユーザビリティガイドライン策定(期間:約1.5ヶ月間)
    現状分析とユーザーインターフェース評価から、ガイドラインを策定。同時に、ユーザビリティテストを進行させ、分析や評価の内容をユーザー自身に尋ねることで検証し、新たに得られた知見をガイドラインに反映した。
  4. ユーザビリティテスト(期間:約1ヶ月間)
    プロトタイプのユーザビリティテストを実施した。
  5. 社内浸透活動(期間:2日間)
    作成したユーザビリティガイドラインを、社内へ浸透させるためのセミナーを実施した。
  6. ユーザーインターフェース標準作成(1.5か月)
    住信情報サービス株式会社様がAdobe Flexで開発した新システムのプロトタイプに対して評価・改善デザインを繰り返し実施しながら、UIのルールを抽出しUI標準としてまとめた。

対象となったシステム

  • 汎用勘定系システム(CUI)
  • 分散勘定系システム(.NET)
  • CRM システム(パッケージソフト)

効果

  • 異なる考え方を持つ複数の開発者によって、サービス単位で個別に開発されてきたシステムを、基本設計段階から標準化し、一貫したコンセプトのもとでUI設計ができるようになった。
  • 組織全体で、業務プロセスをベースとした方針に基づいた開発体制を築く礎ができた。
  • 今後のシステム構築はもちろん、現行システムの保守・レベルアップ、エンジニアのスキルアップにもつながる第一歩としての基準ができた。
  • 業務を行うために必要な画面数・操作数・操作時間を減らすことができ、全体で作業効率15%アップの実現にユーザーインターフェースが重要な貢献を果たした。
  • 営業店の現場のユーザーから「使いやすくなった」などユーザビリティに関する肯定的な意見が多くあり、顧客満足度向上を概ね達成できた。

ご担当者様からのコメント

住友信託銀行株式会社 システム推進部 名古屋 誠様

「ユーザビリティに対する取組みの重要性は、過去に携わったプロジェクトでも実感しておりました。いくら出来上がったシステムが機能として素晴らしいものを提供できたとしても、ユーザーが使っていてストレスを感じるインターフェースであれば、効果も半減します。
今回は、御社のご協力・アドバイスをいただき、開発サイドだけではなく業務サイドと共にUI標準書を作成できたことが、成功の鍵だったと実感しております。また、プロトタイピングに対する適切な改善提案も非常に効果的でした。ありがとうございました。」

住友信託銀行株式会社 リテール企画推進部 小吉 文子様

「ある支店の窓口担当者から、会った途端に『新しいシステムはとても便利です。セールスがしやすくなりました』と喜びの言葉がありました。
『見やすくなった』『お客様について知りたい情報をすぐ確認することができる』このような声も多く寄せられています。
勘定系・CRM 系の多数の情報をわかりやすく表示し、且つ入手した情報をさらに蓄積して活かすコンサルティング営業を目指す当社にとって、良いスタートが切れました。ありがとうございました。」

住信情報サービス株式会社 開発第一部 谷口 祐弥様

「本プロジェクトにおいてはユーザビリティ向上への取り組みとしてUI標準書を策定し、これを核として設計にあたりました。
初めての試みであり構成や内容に戸惑うところもありましたが、御社(ソシオメディア)にベースとなる初版を作成いただき、これにプロジェクト要件に沿った変更を加味することで、効果的なUI標準書が策定できました。
結果、多数のユーザー・開発者が関わる大規模プロジェクトでありながら、一貫性のあるインターフェースの提供を実現することが可能となりました。
リリース後の成果・反響からも、この手法の意義・有効性を実感しております。
プロトタイプの評価・改善を繰り返しながら、御社とともに操作性向上を目指して標準仕様を固めたことが成功の鍵であったと思っています。」

参考情報

アドビ社での同プロジェクトの事例資料(PDF: 336KB)